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case2-4症状的にあり得ない
【不治の病?!】あなたのかぜはどこから? ―喉の痛みは銀のベンザ!

生活関連

2024.01.26

これから外国人材の雇用を予定している人もそうでない人も!!

異なる人種、文化、価値観に触れる時
― 外国人って、どんな人たちなんだろう
― どんなことに気をつけたらいいんだろう
― 日本人や日本の文化をどう思ってるんだろう
などなど、不安や疑問に思うこと、ありますよね。

この記事は、実際に起きた珍事を元に、外国人雇用の現場に携わる人々の戸惑いを描き、

「外国人材の皆さんと、どんなふうにコミュニケートしたらよいの?」

のヒントが隠れる、異文化理解の橋渡しを目的としたノンフィクションストーリーです。

合理的にあり得ない
~キャリアアドバイザー青山智香の解明~第4話

>第1話はこちらから
>>第2話はこちらから
>>>第3話はこちらから

解明

思えば、ボクの人生は充実していたように思う。
母国のフィリピンでは、家族8人、仲良く暮らしていた。長男のボクは、少し年の離れた妹と弟のために日本で働く決意をした。日本は昔から好きだった。これから、観光をしたり、美味しいものを食べたり、仕事は大変だけどそんなことも楽しみながら過ごす1年にしたいと思っていた。



まさか、こんなことになるなんて…。

今日は会社を休んでしまったが、コロナもインフルエンザも蔓延するこのご時世に、新たな疫病を持ち込んだなどと騒がれ、会社に迷惑をかけるわけにもいかなかった。
悩んだ末に、ボクら技能実習生の就職のお世話をしてくれているキャリアアドバイザーの青山さんに電話してみたところ今日、東京から来てくれるということだった。

いよいよ、ボクも終わりなのだ。

真っ暗な部屋。カーテンの向こうは麗らかな春の陽気。さくらの花も見ごろを迎えているだろう。

布団に潜り込んだ。この1か月、日本で見たさまざまな光景や人々が走馬灯のように駆け巡っていく。

インターホンが鳴った。同時に携帯電話がブルブル震えている。



「マシューさん?病院行くわよ、早く準備して出てきて!!」
青山さんだ。もう電話口の声が、ドアの方から響いている。思ったより早く到着したみたいだ。

「え?でも、ボクは誰にも会っちゃ…」

「何ゆーてんねん!はよ、病院行くでー」

こんなにボクは深刻なのに、青山さんの声はびっくりするほどあっけらかんとしている。病院なんて行ったところでもうこんな状態じゃ手遅れだというのに…。

電話はすぐに切れた。それでもインターホンは鳴りやまない。鳴りやまないどころかリズムさえつき、ボクを呼んでいる。

とにかくこんな格好じゃ人には会えないし、簡単に準備をして、部屋を出た。

「もう、マシューさん、心配させんといてー!くしゃみ?鼻水?ああ、目も赤い。ゴロゴロするんちゃう?」

いつもの青山さんがそこに居た。青山さんはいつ見ても美人でボクのタイプなんだけど、せっかちだし、早口だし、遠慮がなくて、この手の女性にはたじろいでしまう。あまりこの辺りでは聞きなれない方言が混じっていて、いつものボクなら問い直したいのだけど、とにかく今は頷くしかない。

「それ、たぶん、花粉症やわ。ほら、いまスギの花粉が凄いから。イネとかヒノキとか…セイタカアワダチソウとかだっけ?とにかく、花粉よ、花粉!」



カフン…
カフンショウ…?何だそれは。
こんなに薬も効かず、ジワジワと身体の機能を蝕んでいく病気、ボクの国にはないんだが。

「ま、とにかく病院行こ!」

思考を遮られ、タクシーに押し込まれ、向かった病院には、ボクと同じようにマスクをはめ、鼻をぐずらせ、ぼんやり空を見つめている人々が詰めかけていた。
死期を悟ったボクとしては、こんなに大勢、同じような症状の人が居ると知り少し安堵したものの、カフンショウなるものに目も鼻も口も冒され、息も絶え絶えになっている。

診察では、パッチテストが行われた。その結果、ボクはスギとヒノキなどに対してアレルギー反応があり、飲み薬、点鼻薬、点眼薬が処方された。
ちなみに、フィリピンにも生息するセイタカアワダチソウってのは、日本だと花粉症の原因になる植物と思われがちだが、正しくはブタクサという植物によるもので、見た目が似ていて間違って認知されているそうだ。

こうして、あっけなくボクの闘病生活は終わりを迎えた。



……2週間後、私、青山智香のデスクに1枚の封書が届いた。

すっかり元気になったマシューさんから想いがつづられたラブレターが1枚と、近所の桜の木に最後まで残っていたらしい桜の押し花がひとつ、そっと封入されていた。

「いやいや、ホンマどんなつもりやねん」

今、電話口から聞こえてくる特徴的なくしゃみが、マシューさんそっくりで、半年前の記憶が蘇る。

いかん、いかん。

電話のお相手は〇〇株式会社 担当Aさん。先月、訪問したばかりの九州の企業様でウチから4名の技能実習生を送り出している。最近ちょこちょこ相談の電話がかかってくる。

「ああ、青山さん、ごめんなさいね。ちょっと、風邪引いてしまったようで喉の調子が悪くって。おまけに今朝はくしゃみまで…ぇッ…ハッヘッ…ヘックション!」

「それはもう、銀のベ〇ザブロックですね(笑)」

「え?はい、そうです。…え?……??」

「いえ、こっちの話です。それで、今日はどうされたんですか?」



生真面目なタイプのAさん。
その困惑ぶりも、マシューさんのそれと重なった。

症状的にあり得ない
【あなたのかぜはどこから? ―喉の痛みは銀のベンザ!】
おしまい

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