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case2-2症状的にあり得ない
【不治の病?!】あなたのかぜはどこから? ―喉の痛みは銀のベンザ!

生活関連

2024.01.12

これから外国人材の雇用を予定している人もそうでない人も!!

異なる人種、文化、価値観に触れる時
― 外国人って、どんな人たちなんだろう
― どんなことに気をつけたらいいんだろう
― 日本人や日本の文化をどう思ってるんだろう
などなど、不安や疑問に思うこと、ありますよね。

この記事は、実際に起きた珍事を元に、外国人雇用の現場に携わる人々の戸惑いを描き、

「外国人材の皆さんと、どんなふうにコミュニケートしたらよいの?」

のヒントが隠れる、異文化理解の橋渡しを目的としたノンフィクションストーリーです。

合理的にあり得ない
~キャリアアドバイザー青山智香の解明~第2話

>第1話はこちらから

鼻うがい

ボクはフィリピン出身の技能実習生で名前はマシュー、23歳。

母国であるフィリピンは総面積は約30万㎢で、日本の北海道を除いた大きさに近く、大小7,641の島々が点在する東南アジアの国。長くスペインとアメリカの統治時代があり、その歴史が文化や国民性にも色濃く表れている。

温暖な気候から、農業が盛んで、日本でもよく見かけるローズマリーやセイタカアワダチソウ、クワズイモ、ドラセナ、パキラなどの植物が街中や公園を歩けば、こういった一般的な植物を見ることができる。また、最近では“奇跡の木”“スーパーフード”と名高いモリンガの生産も盛んである。



そんな国に生まれたボクは、日本が大好きだ。特に、富士山。あの美しいフォルムは、ボクが生まれたフィリピンのマヨンに似ている。マニラからは遠く、ボクも一度しか行ったことがないけれど、フィリピンのマヨン山は綺麗な円錐形の火山で、地元では富士山よりも美しいといわれており、かつて日系人移民からは「ルソン富士」と呼ばれていたらしい。

そして今ボクは富士山のふもと、静岡県で働いている。なんたる運命!しかし、この富士山、山梨県と静岡県の県を跨いでおり、明治時代以前より山頂部から東側斜面(山梨県富士吉田市と静岡県小山町、および山梨県鳴沢村と静岡県富士宮市)にかけて境界が定まっておらず、目下、県民同士で対立中とのことである。



そのうちに、富士山への登山に胸を躍らせていたボクが喉に違和感を覚えたのは、ちょうど日本に来て1か月が経った頃だった。4月とはいえ、まだ朝夕の冷え込みが厳しいこの季節。
温暖だった母国での生活から一変、1日の気温の振れ幅には少しずつ慣れてきたけれど、ちょっと油断するとびっくりするほど寒く、上着が必要だ。この喉の痛みは、風邪の引き始めかもしれない。



翌日、念のためマスクをして出社した。
ちょっと厚手の上着も羽織り、温かい格好をしているつもりなのに、相変わらずくしゃみが止まらない。

「あら、マシューさん、風邪でも引いたの?せっかく温かくなってきたのに、昨日の夜、すっごく寒かったもんね!たぶん、もうしばらくはこんな気候が続くから気をつけて」

出社すると、何人かのスタッフさんが心配して声をかけてくれた。日本の人たちは優しい。しかし、何かにつけ声をかけてくれるので、あまり喋るのが得意じゃないボクはちょっと恐縮してしまう。ここでちゃんと返事ができたらいいんだけど、ついつい頷くばかりになってしまうのだった。

その翌日もまたその翌日も、マスクをして出社した。なんせ、くしゃみが止まらない。ついに鼻水まで出始めて呼吸器全般が苦しくなってきた。熱もないし咳も出ない。でも、世間はコロナやインフルエンザが流行っていて、このままではボクも例外なく疑われてしまう。

不安になりつつもとりあえず午前中の業務を終え、休憩室に戻って来た。今日のお昼ご飯は激辛フォー。母国では、ちょっと調子が悪い気がするときはいつもより辛めの食事をすることにしていた。

蓋を開け、ポットからお湯を入れようとしたその時、田中さんがやって来た。田中さんはボクたち技能実習生のお世話係で、とても面倒見のいい気さくな方。お子さんが3人いらっしゃるんだとか。

「マシューさん、喉が痛いんでしょう?かわいそうに!そういう時は、鼻うがいをしたらいいですよ。ドラッグストアに行けば専用液があるけど、家にあるものでできるから大丈夫」

「ハ…ハナウガイ…?」

田中さんは慣れた手つきでキッチンの戸棚から塩とコップ、スプーンを取り出し、準備を始めた。白衣こそ身に付けていないものの、何やら化学実験の様相だ。



「ちょっと、お湯、貰うわよ」

ポットがくるりと回り、コップに半量ほどのお湯が注がれる。

「ほら、こうすると塩も溶けるし、水よりぬるま湯の方がやりやすいからね。これで普通に口でうがいをするのもいいけど、オススメは鼻から吸って、口から吐き出すの。鼻がよく通るようになってスッキリするよ?」

そう言うと、田中さんはシンクに身を乗り出して、鼻からコップの水をすすり出した。鼻からも口からも水が滴り落ちていて、何が正しいのかわからないけど、見た目などお構いなしに繰り返している。

ボクは内心焦った。スポーツで何が嫌いかと言ったら、真っ先に水泳と答えるレベルで水が嫌いだ。否応なしに目や鼻、耳に水が入ってくるあの感じ…。特に鼻に入ってきたときのツーンとした痛みときたら、耐えがたいものがある。

「ほら、これ、塩を混ぜてるじゃない?生理食塩水だから鼻に入れても痛くないから大丈夫。フィリピンには鼻うがいってないかしら?」

いやいや、待て。理屈はわかる。塩には殺菌効果があって消毒にもなる。塩うがいだったら母国でも(ボクはやらないけど…!)おばあちゃんがやっていた。しかし、よりにもよって鼻からってのは、ちょっと無理がある。

困惑しているボクを察してか、気持ち良いよとばかりにニコッとする田中さんの顔は、ほぼ全域水浸しだ。上半身は相変わらずシンクに乗り出したまま、ハンカチを探す手が左右のポケットを行き来している。

いつも気がけてくれる田中さん。今日はわざわざ、ボクが昼休憩になったのを見計らって来てくれたに違いない。それに、こんなに体を張って見本をやってくれている…。

もう、これはやるしか状況だ。

間抜けな顔をしたカップ麺の蓋を閉じ、田中さんが用意してくれたコップに持ち替える。ポットのお湯を注ぎ、スプーンで混ぜながらシンクに向かった。

「鼻うがいは、私はやったことがありません。でも、やってみます」

鼻から大きく息を吸い、吐き出す…。次は水を吸うイメージでもう一度。

蛇口をひねり、覚悟を決める。
ハンカチは右側のポケットにあるのを確認済みだ。

つづく

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