外国人実習生の失踪問題と起こった後の対処法を解説
2023.12.20
技能実習生の受け入れが増加する一方、近年は実習生の失踪増加をはじめ、さまざまな問題が顕在化してきました。こうした状況を受けて、現在の技能実習制度は見直しが進められています。
本記事では、外国人技能実習生の失踪者数の状況と失踪者への対応などを解説します。
CONTENTS
1.外国人技能実習生の失踪者数の推移
国内の人材不足にある日本では、多くの企業が技能実習生の受け入れを行っています。一方で、近年問題になっているのが技能実習生の失踪です。
法務省が発表したデータによれば、2015年は3,566人だった失踪者数が2022年には約2.6倍の9,006人になるなど、年々増加しています。
2.外国人技能実習生が失踪する理由
これだけ多くの技能実習生が失踪してしまう原因は一体どこにあるのでしょうか。3つの要因を解説します。
2-1.雇用条件の不一致
最も大きな要因と考えられるのが、技能実習生に提示していた雇用条件と実態の乖離です。技能実習生に対しても日本の労働基準法を基に最低賃金や労働時間などを提示しなければいけませんが、この契約が守られていないことも多いのが現状です。
特に賃金のトラブルは多く、約束していた正規の賃金からの不当に減額される、残業代が支払われないというケースが報告されています。
2-2.受け入れ側のサポート不足
外国人技能実習生に限った話ではありませんが、日本の職場において外国人はまだまだ少数です。そのため、うまく日本人の輪の中に入れず、孤立してしまうケースも多いようです。
また、雇用側がうまく受け入れ体制を構築できていないために日本人労働者からの暴言や暴力などのパワーハラスメント、長時間労働の強要、休暇を与えないなど、劣悪な労働環境にさらされている場合もあります。
2-3.実習生の経済的な問題
2022年に出入国在留管理庁が発表した「技能実習生の支払い費用に関する実態調査(悔過の概要)」によれば、来日するまでに母国の送り出し機関に何らかの費用を支払っている技能実習生は約85%、支払い費用の平均は52万1,065円となっています。また、送り出し機関以外の母国仲介者に何らかの費用を支払っているケースが約11%あり、支払い費用の平均は33万5,378円です。これらの費用を支払うために約55%の技能実習生は、母国で平均金額54万7,788円の借金をして日本に来日しています。
当然、技能実習生として働きながら借金を返済していくわけですが、日本で受け取る賃金が想定よりも低いとそれも難しくなります。そのため、違法と知りながらももっと稼ぐために失踪して不法就労に従事するというケースが増えているのです。
3.失踪者を防ぐ方法
受け入れた技能実習生を失踪させないために、企業はどのような対策を講じるべきでしょうか。4つのポイントを解説します。
3-1.法令を遵守する送り出し機関を利用する
送り出し機関の中には、技能実習生から保証金を徴収したり、失踪した場合に技能実習生が違約金を支払う契約を結ばせたりするところがあります。しかし、技能実習制度では保証金の徴収や違約金の設定は認められていません。こうした悪質な送り出し機関を利用すると技能実習生の負担が大きくなるため、失踪の不安も大きくなると考えられます。
3-2.信頼できる監理団体を選ぶ
来日後の技能実習生をサポートする監理団体は、優良(一般監理事業)とそれ以外(特定監理事業)に分けられます。優良な監理団体に認定されるには外国人技能実習機構が項目ごとに定められるポイントの合計値が一定の点数(150満点中6割以上)を超えていなければいけません。この審査は一度認定されても基準点数を満たさなくなれば認定が取り消されてしまいます。
厳しい審査をクリアしている管理団体は信頼できるともいえるので、管理団体を選ぶ際の参考に覚えておきましょう。
3-3.実習生の経済状況を知る
技能実習生の半数以上が借金をして来日しているケースがあることは前項で解説しましたが、借り入れ金額と返済計画を事前に把握しておくことも失踪を防ぐのに効果的です。技能実習生の中には額面金額と手取り金額が異なることを理解せず返済計画を立てている場合があり、額面金額で返済計画を立てているケースも珍しくありません。手取り金額から返済額を差し引いた金額で生活が持続できるのか、アドバイスできる状況を整えるようにしましょう。
3-4.不法な労働条件をなくす
技能実習生が安心して技能習得に励むための環境を、受け入れ企業は整える必要があります。そのためには、労働基準法を無視した賃金体系や労働時間などで働かせることは絶対にしてはいけません。他にも技能実習生が孤立しないようにコミュニケーションを図る、人権を侵害するような暴言、暴力がない職場環境を作るなどの努力が求められます。
4.失踪者が出たあとの対応
対策をしたうえで失踪者が出てしまうこともあるかもしれません。失踪者が出てしまった後に受け入れ企業に求められる行動を解説します。
4-1.監理団体へ報告する
失踪の疑いが生じたら遅滞なく、すぐに管理団体へ報告してください。その上で送り出し機関とも連携しながら、本国の緊急連絡先に対して本人からの連絡の有無を確認するなど、所在の把握に努めましょう。
4-2.外国人技能実習機構へ届け出る
技能実習の実施が困難になった事由の発生から2週間以内に外国人技能実習機構の地方事務所、もしくは支所の認定課に技能実習実施困難時届出書を提出します。この提出は企業単独型の場合は受け入れ企業が、団体管理型の場合は管理団が行います。
4-3.警察に連絡する
技能実習生の失踪が本人の意思ではなく、事件に巻き込まれている可能性もあります。そのため、外国人技能実習機構への届け出と合わせて、必ず警察署に行方不明届け出を行いましょう。
4-4.退職の手続きを行う
社内規定に従って退職手続きをし、社会保険、雇用保険などの資格喪失手続きを行います。
4-5.退職の手続きを行う
技能実習生が失踪する前日までの給与を計算し、遅滞なく給料日に支払いましょう。支払わない場合は給与の未払いとみなされ、受け入れ企業が不利益を被る可能性がありますので注意してください。
5.優良な実習実施者要件の減点の対象になる
受け入れ企業も管理団体と同様に、優良な実習実施者の要件を満たしている場合に優遇を受けられます。しかし、直近過去3年間に技能実習生の失踪者が多い企業は減点対象となり、要件の基準を満たしづらくなります。もしも優良な実習実施者から外された場合、技能実習3号(技能実習の最長期間となる4〜5年目の在留資格)の受け入れができなくなり、受け入れ人数枠も規定の人数に制限されます。
6.まとめ
今回は技能実習生の失踪について解説してきました。技能実習生が失踪する理由には、労働環境という企業の問題と技能実習生の経済的な問題という大きく2つがあり、どちらか一方だけが改善すればいいという簡単な問題ではありません。その中で企業には、技能実習生に不正な労働をさせないこと、日頃から技能実習生とコミュニケーションを取れる環境作りが求められています。
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