【労災保険】外国人技能実習生受け入れに必要
2023.12.08
外国人技能実習生の増加に伴い、実習中にケガなどの事故が発生するケースも増えています。外国人技能実習生の労災への対応は、基本的に日本人の場合と同様、労災保険の対象になります。
本記事では、外国人技能実習生の労災状況とケガや事故になった場合の企業の対処法について解説します。
CONTENTS
- 1.外国人技能実習生の労働災害の状況
- 2.外国人技能実習生は労災保険が適用する
- 3.外国人技能実習生が事故やケガをしたら?
- 4.外国人技能実習生が帰国する場合の注意点
- 5.労災隠しに注意しましょう
- 6.まとめ
1.外国人技能実習生の労働災害の状況
厚生労働省の「令和4年労働災害発生状況」によると、令和4年1月から12月までの1年間で仕事中に亡くなった日本人と外国人を合わせた労働者数は774人。前年と比較すると4人減りましたが、休業4日以上の死傷者数は13万2355人で、前年と比較すると1769人増加し、過去20年で最多となりました。
そのうち、外国人労働者の死傷者数は4808人(新型コロナウイルス感染症の罹患による人数を除いた数)となっています(「令和4年外国人労働者の労働災害発生状況」より)。1年間の労働者千人当たりに発生した死傷者数の割合(千人率)は2.64と、日本人を含むすべての労働者の千人率2.32よりも高いことが分かります。
さらに、外国人技能実習生(在留資格「技能実習」)は、他の在留資格の外国人労働者よりも労働災害発生率が高い傾向にあり(千人率3.79)、労働者全体の1.6倍、外国人労働者全体の1.4倍となっています。これは、多くの外国人技能実習生が建設業や製造業で働いており、その現場で労働災害が発生していることを物語っています。
2.外国人技能実習生は労災保険が適用する
実際に労働災害が発生した場合、その治療費などは企業側が負担しなければなりません。ただし、労働災害(業務災害・通勤災害)は、労災保険が適用されます。労災保険は国が所管する強制保険なので、外国人技能実習生も日本人労働者と同じく労災保険の対象となります。
3.外国人技能実習生が事故やケガをしたら?
外国人技能実習生から「通勤途中に事故に遭ってケガをした」「仕事中にケガをした」と報告があった場合、受け入れ企業は、管轄の労働基準監督署へ「労働者死傷病報告」を提出しなければなりません。さらに労働基準監督署へ労災申請に必要な書類を提出すると労災事故の調査が入り、労災認定されると労災保険が給付されます。
労災申請は原則として外国人技能実習生が行いますが、受け入れ企業は、労災申請に関して必要な書類などに速やかに対応しなければならないほか、外国人技能実習生が自分で請求することが困難な場合は、受け入れ企業が請求手続きを代行するなど、必要な援助を行わなければなりません。なお、労災保険には主に「療養の給付」と「休業補償」があります。
3-1.療養の給付
「療養の給付」とは、労災病院や労災指定病院などに受診すれば、原則として無料で療養を受けられる制度です。同じように療養を受けられる「療養の費用の支給」もあり、労災病院や労災指定病院以外で療養を受けた場合の費用を支給する制度となります。治療費や入院費用、看護料、移送費など療養に必要なものはすべて含まれます。
3-2.休業補償
「休業補償」とは外国人技能実習生を含む労働者が業務上のケガや病気により、賃金を受けない期間が4日以上にわたる場合の保険内容です。休業開始4日目以降について、給付基礎日額の60%相当額が支給され、さらに特別支給金として給付基礎日額の20%の給付も受けられるので、合計で給付基礎日額の80%が支給されます。ただし、業務災害の場合は、最初の3日間は事業主の補償義務があるので注意しましょう。
3-3.実習再開へ向けた手続き
外国人技能実習生の事故後の対応として、労災保険の請求手続きのほか、監理団体と技能実習機構(OTIT)への報告が必要です。
監理団体とは海外での技能実習生の募集や受け入れに関する調整、各種手続き、受け入れ企業に対する指導や受け入れ後の監査などを行う組織です。さまざまな企業で外国人技能実習生を支援しているので、労働災害が発生した場合は監理団体に連絡すれば、対応方法など適切なサポートを受けられます。
技能実習機構(OTIT)とは、技能実習制度において適正な技能実習の実行と技能実習生の保護を目的とする機関です。ケガなどで休業した場合は、技能実習を中断した理由と技能実習計画を再提出しなければなりません。
4.外国人技能実習生が帰国する場合の注意点
外国人技能実習生が技能実習を中断、一時帰国して、再入国後に技能実習を再開する場合と、技能実習を終了し帰国する場合では、受け入れ企業の対応に違いがあります。
4-1.一時帰国する場合
一時帰国してから再入国し、実習を再開する場合は、まず監理団体から技能実習機構(OTIT)へ技能実習困難時届出書を提出してもらいます。外国人技能実習生の帰国後(航空券の手配・送迎は企業負担)、技能実習を中断した理由と技能実習計画を技能実習機構(OTIT)へ提出します。
なお、技能実習計画は実習生本人の希望時期に合わせて申請しましょう。また、再入国時の航空券の手配・送迎費用も帰国時と同様に企業負担となります。
4-2.帰国する場合
技能実習を終了して帰国する場合は、技能実習機構(OTIT)へ技能実習困難時届出書を提出してもらい、帰国の航空券の手配・送迎費用を負担し、帰国してもらいます。
5.労災隠しに注意しましょう
ここまで外国人技能実習生が仕事中や通勤時にケガをするなど、労働災害が発生した場合の対応について解説してきました。しかし、実際には「労働者死傷病報告」を提出しない、虚偽の報告をするなどの「労災隠し」が全国で発生しています。
労災隠しが行われる理由には、労災の報告義務を認識していないことや企業イメージが損なわれることを避けるためといった理由が挙げられます。また、外国人技能実習生に対して社会保険や労働保険などの説明が十分に行われず、実習生の認識不足から労働災害の事実を隠蔽されてしまうケースもあります。仮に、受け入れ企業が治療費を支払ったとしても、労災の報告をしなければ重大な犯罪となり、企業イメージの低下どころでは済まされません。
6.まとめ
外国人技能実習生の受け入れに労災保険が必要なことについて解説しました。冒頭で労働災害の状況について触れましたが、建設現場や製造現場で働くケースの多い外国人技能実習生の労働災害は、他の在留資格所持者よりも多数発生しています。外国人技能実習生を雇用する場合は、業務上のケガや通勤時の事故に遭う可能性を想定して、労災の申請や実習が中断したときの手続きを事前に把握しておくことが受け入れ企業に求められます。
それらの手続きを怠る「労災隠し」が発覚すれば、企業は外国人技能実習生を受け入れることができなくなるのはもちろん、罪に問われます。有罪となった場合、例えば多くの外国人技能実習生が従事する建設業であれば、国や自治体の入札指名停止処分を受けるのが通常です。そのような社会的制裁を受ける事態に陥らないためにも、労働災害への対処法や労災保険について確認しておきましょう。
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