合理的にあり得ない
～キャリアアドバイザー青山智香の解明～第3話

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恐怖

私、青山智香は余震の最中、会社のメンバーと連絡を取っていた。

地震が起きたのは、20××年 23時15分前後。

突き上げるような揺れを感じ、近くの広場に避難してからあっという間に１時間が経とうとしている。

自宅エントランスを出たところで裏の古い家屋から煙が上がり、全てを諦め覚悟を決めたのだが、どうやら屋根が落ちた砂埃で火事ということではなかったようだ。

私が住む地域は埋め立て地で揺れが激しく、古い家々は倒壊し、所々で地割れや液状化現象が起きている。幸い、火を使っている家は少なかったのだろう、この住宅街で火事は起きていない。

避難後、家族や知人とも連絡が取れ、地震が起きたのは関東地方のこちら側だけだとわかった。皆、無事で安心したのも束の間、社用ケータイが鳴り響き、社員や派遣スタッフ、技能実習生たちの安否確認が始まった。



「青山さん、こっちこっちー！」

クラクションが鳴り、同じチームの同僚が運転席から手を振っている。
つい最近、来日した実習生たちの様子を確認しに向かうと聞き、私が担当するグループもその中に含まれていたため、一緒に連れて行ってもらうことにしたのだ。

避難した広場からさらに東へ歩き、川を越えた先の隣町は比較的被害が少なく、車の往来もある。同僚と待ち合わせしたここは、電気もついていて慌てふためく住人が屋内外を出入りしているものの、私の住まい付近に比べるとかなり落ち着いていた。

さて、実習生たちは訓練で学んだように避難できただろうか。しっかり者の女性グループに対して男性グループは、そそっかしいメンツ揃い。日頃の様子を思い浮かべると、不安だらけだ。
会社の方で安否確認はできたらしいのだが、その後、女性グループともなかなか電話がつながらないのが少し心配である。



気づけばAさんたちが避難する公園に到着していた。

「青山さん、私はこれから別グループの状況確認に行くので、また連絡ください。迎えに来ますから」
「ありがとう、気をつけて行ってきて。また連絡する！」

お礼を告げ、車を降りると、たくさんの人々が公園に向かって進んでいた。

避難者も救助者も皆ここに集っているのだろう。この地域は在留外国人が多く、さまざまな言語が聞こえてくる。辺りを見回すと若い男女が声を掛け合っているグループがあった。

「青山さん？来てくれたんですか！私です。みんなの様子を見に来たところです」

よく見ると、そこにはエフ株式会社に務めるベトナム人グループの男女５人と、ベトナム語通訳さん、そして弊社の日本人スタッフが集まっていた。どうやら、同じ寮の皆で集まっていたところに、近くのスタッフ勢が駆け付け、対応している最中だった。

足元でしくしく泣いているのはBさん。体感したことのない揺れへの動揺と、度重なる余震から終わりのない恐怖を感じ、涙が止まらないとのこと。同室のAさんやスタッフたちで代わる代わる慰めているが、ずっと泣いているらしい。

「智香先生、来たよ！私も居るし、みんなも居るよ。大丈夫。日本は地震が多いから、救助体制もしっかりしてる、命の心配はないからね。それから、大きな地震の後は、小さな地震が続くけど、もうすぐ落ち着く。私たちは時々こうして地震を経験してるから、対処法もわかってる。私たちがいれば不安はないからね！」

そう言ってBさんの手をぎゅっと握りしめた。念のためベトナム語通訳し、Aさんと2人でBさんの背中をさする。ウルウル光る目から、次から次に涙が溢れ出る。それを見守るかのように、スタッフと男性陣が周りを囲んでいる。

Bさんはとても立ち上がれそうにないが、ライフラインのチェックやエフ株式会社の皆さんとも連絡を取らねばならない。

いったん、Bさんの見守り役をスタッフに任せ、Aさんと通訳さん、同寮の男性３名と共に、寮の様子を確認しに行くことにした。



つづく