合理的にあり得ない
～キャリアアドバイザー青山智香の解明～第2話

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Earthquake

20××年 23時16分。浅い眠りについた私は誰かに揺すられた気がして薄目を開けた。



今夜は私の大好物バイン・ミーで、ちょうどお母さんに呼ばれたところだった。ゴミ捨てだけして行こうとしてたのに。ちょっと待って……。

そう思ったのも束の間、悲鳴と、地鳴りと、ガタゴトと揺れる家具の音とが迫って来た。廊下を走る音。物が倒れる音。

「待って、お母さん……
あれ？お母さんってば！」
……違う！これは夢じゃない…！

ベッドから起き上がるとすぐ傍にある机の下に駆け込んだ。同じ部屋のBさんが私とほぼ同じタイミングで向かいの机の下に潜り込んでいた。

ガタガタ、ガラガラ…
ガシャーン

遠くで何かが倒れる音がする。
机の上にあったペン立てやコップ、写真たてが目の前を通過していく。あまりの恐怖に声すら出ない。Bさんの口がパクパク動き言葉にならない声が涙となって頬を伝っている。棚の上から飛び出した段ボールを見つめながら、身体が外に飛び出さないよう必死で机の脚に掴まっていた。

何分ぐらい経っただろうか。気がつけば、揺れは収まっていた。全ての感情が目の前の景色に追い付かない。腰が抜け、すぐには立ち上がれなかった。



たぶん、これがearthquake、地震だ。

「頭上から物が落ちてこないよう広い場所に逃げること」

先月、防災訓練を受けた時に何度も聞いた言葉だ。揺れは収まった。幸い窓ガラスは割れていないが、床は物で散乱している。ここは何があるかわからない…。家の中にいるのは危ない…。外の広い場所に逃げる…そう近くの広い公園だ！



とにかく貴重品を持って部屋を出よう。

顔を上げるとBさんが涙を流しながらブルブル震えていた。私だって怖いし泣きたいし国に帰りたい。でも、ここは年上の私がしっかりしなければなるまい。

「Bさん、泣かないで、落ち着いて。きっと大丈夫。入社研修や防災訓練で学んだことを思い出してみよう」

Bさんが私の目を見てコクっと頷く。

「地震が起きたら逃げる。だけど、水、食料少しは持って行く。あと、ケータイ、充電器。それから…えっと………」

Bさんが袖で顔をゴシゴシ擦りながら応答する。

「在留カード、パスポート、財布。タオル、懐中電灯。それと飲み薬も」

部屋を出て、キッチンとお風呂を回る。ガスの元栓を締めよう。あと、水はどこだっけ？部屋を再び一周して、棚を開けるとペットボトルと日持ちしそうなお菓子があった。そういえば、防災訓練に参加した日、ここに防災グッズをまとめておいたんだ。

「Bさん、ここに2人分の防災グッズあるからもう大丈夫。あとは貴重品だけ持って、一緒に逃げよう！」

Bさんが、毛布を抱きしめて部屋から出てきた。

「外は寒いよ？」

私たちは厚手のダウンを羽織り、防災グッズを入れたビニール袋を提げ、近くの公園に逃げることにした。

生き延びよう。生きてお母さんのバインミーをお腹いっぱい食べるんだ！

そう心に誓い、Bさんの手を握りしめ玄関を飛び出した。

つづく