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【専門家コラム】海外出身の社員が日本の会社で働く際に感じる困難と解決策

 こんにちは。日本語教師の伊藤茉莉奈です。ビジネスパーソン、技能実習生、留学生を対象とするビジネスマナーに関する書籍は多く出版されていますが、そのような書籍には日本企業の視点から、「外国人材(財)」に身につけてほしいことや、育成するうえでの困難が盛り込まれています。それでは、反対に、日本の会社で働きたい・働いている海外出身の人びとは、どのような困難を抱えているのでしょうか。このコラムでは、日本の会社で働きたい・働いている海外出身の人びとの視点から見た、働くことの困難をご紹介したいと思います。

◆日本の会社で働く海外出身の人が増えているという現状

 厚生労働省によると、日本と地理的に近く、日本における在留資格を持つ人の多い国であるベトナム・中国・韓国出身の在留外国人のうち、高度技能労働者が占める割合が上昇しています(p.18,https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000773364.pdf,2021年6月10日閲覧)。 つまり、留学や技能実習を目的とした来日ではなく、日本の会社や高等教育機関等で働くことを目的とした来日の割合が増えているということです。
 こうした海外出身の人びとが日本で働く理由は、学生時代に習得した日本語能力(日本語能力試験N1の合格等)を活かしたいから、日本のポップカルチャーが好きだから、出身国での就職が難しいから、というようにさまざまです。日本で働くことに大きな夢と期待を持って来日した彼らですが、思わぬ困難が待ち受けているようです。
 私は日本語教師という立場上、日本企業に就職した元留学生からさまざまな質問を受けたり、相談されたりすることがあります。例えば以下のようなことです。

◆困難:日本の会社の風土

1)「上下」という人間関係の捉え方

 日本の会社では、組織内の人間関係が「上下」で捉えられる場合が多いと聞きます。上司であれば横柄に振る舞っても良いとか、上司の命令や上司が決めたルールは絶対であるとか、上司に意見を述べると聞く耳を持ってもらえないどころか頭ごなしに叱られるとかいうことは、よくあるそうです。
 これまで「上下」の人間関係の中で生きてこなかった人は、こうした状況に戸惑います。教師やクラスメイトと自由に意見を言い合えるような教室環境で学んだ人や、フォロワーシップ理論(ロバート・ケリー教授, 1992)やサーバントリーダーシップ(ロバート・K・グリーンリーフ博士, 1970)を踏襲している企業で働いてきた人にとって、人間関係はあくまで対等な繋がりであり、上から押さえつけるような関係性は全く馴染みのないものなのです。世界に目を向けると、むしろ「上下」という捉え方をしている人々のほうが少数派であるように思えますが、日本にはこうした伝統的な縦の繋がりを重視する組織が、少なからず残っています。

2)「長い時間働いていること」が高く評価されること

 会社で高い評価を得るためには、残業や休日出勤をしなければならないと考える社員が多いといいます。コロナ禍においては、テレワークをしないで出社することが、模範的なふるまいとして評価されるというケースもあったと聞きます。
 こうしたことは、私が関わった留学生向け就職支援の授業においても、学生の間でよく話題にのぼります。「自国では、残業をしていたほうが、時間内に仕事が終わらないということで、低い評価に繋がるのに、どうして?」「残業や休日出勤をするということは、家族に負担をかけたり寂しい思いをさせたりしているということ。家族関係が充実していなければ、良い仕事はできないと思うけど…」といった留学生の疑問の声をよく聞きます。
 「頑張っている姿勢を見せる」ことが重視されている社風、「オーバーワークをしてまで組織に貢献している」ことが高評価に繋がる文化は、なかなか海外出身の人には受け入れづらいようです。

3)ハッキリ意見を言わないこと

 会議等の際、意見を求められても、どちらともいえない返事をする人が多くなかなか結論が出ないということにも、困難を感じている人がいます。これは、1で述べた「上下」関係にも関わっていると推察されます。その組織において上司が絶対的権力者であれば、上司が良いと思っている意見に対する反論を、堂々と言える人は少ないのではないでしょうか。また、上司がしっかりとした意見を持っていない場合、その上司の顔色を窺って、どっちつかずの意見を言う人が出てくることも想像できます。私自身、意見を求められても歯切れの悪いことばを並べてうつむいていた学生時代が苦々しく思い出されます。
 しかし、幼い頃から自分で物事を考え、決め、自分の意見をはっきり主張してきた人たちの目に、こうした会議は時間の無駄であるように映ってしまいます。はっきり意見を言わないことのほうが失礼であり、本音で議論し合うことでより良いものを創造していくという価値観を持っている人にとって、「空気を読んで」曖昧な返事をするメリットは理解されにくいかもしれません。

 もちろん、すべての会社が上記のような状況に当てはまるわけではありませんし、すべての海外出身の人びとが上記のように感じているわけではありません。また、海外出身かどうかに関わらず、こうした困難を感じる人もいるでしょう。ただし、ここで強調しておきたいのは、海外出身の人の中には、こうした困難を感じる人が少なくないという事実です。

◆解決策:お互いに歩み寄り、協調する

 働くことに対する考え方の違いにより摩擦や衝突が生まれ、解決されずにフラストレーションが溜まることは、決して望ましい状況ではないでしょう。企業の視点で考えても、採用や育成にコストをかけた社員がすぐに辞めてしまったり、適応障害等で会社に来なくなってしまったりすることは損失に繋がるはずです。また、こうした日本の会社の噂を聞きつけて、日本での就職を断念してしまう優秀な「外国人人材(財)」も少なくありません。では、こうした状況はどのようにすれば解決できるのでしょうか。以下の図をご覧ください。


 

 この図は、ケネス・W・トーマス博士とラルフ・H・キルマン博士(1976)の「二重関心モデル」です。対立が生じたときの、解決に向けた行動を分類しています。この中で、自分も相手も満足できる「協調」という解決方略をとることが理想的であることがわかります。互いの意見を活かし合う「協調」に向かうためには、対立こそより良い改善へのプロセスと捉え、互いの意見とその意見を述べる理由を対話的に共有する必要があります。そのためには、偏見を持たずに物事を前向きに受け入れる風土と、メンバー同士の信頼関係が、組織内にあることが前提となるでしょう。

 こうした議論をする際、「好きで日本に来ているのだから、外国人が日本に合わせるべきだ(Do in Rome as the Romans do.)」という意見が必ず出てきます。この場合、海外出身の人は日本のやり方・考え方を「強制」されることになります。「強制」される方は、フラストレーションが溜まります。そうして溜まったフラストレーションは、自身でうまく昇華できなければ、後々心身ともに問題が起こる可能性があります。そうして問題を抱えるようになった社員を「日本(の会社)に合わなかったんだな」と言って切り捨てることは容易かもしれませんが、根本的な問題解決にはなりませんし、摩擦や衝突が生じた際に前向きに対話しようとしない姿勢から革新は生まれないのではないでしょうか。育ってきた背景や考え方が大きく異なる海外出身の人びとと「協調」することでこそ、これまでにはなかった新しい発想が生まれるように思います。

 いち日本語教師として、明るい未来を夢見て目を輝かせて来日する人びとが、活き活きと自分らしく働ける場が増えることを心より願っています。

伊藤茉莉奈(Ito Marina)

伊藤茉莉奈(Ito Marina)

早稲田大学日本語教育研究科博士後期課程
戸田貴子研究室/舘岡洋子研究室
早稲田日本語教育研究センター非常勤インストラクター



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