人事担当者が知っておきたい外国人の年金脱退一時金制度
2023.06.28

外国人社員が企業を退職して母国へ帰国をする際は、脱退一時金の説明と請求手続きが必要となります。人事担当者の方は、退職後、トラブルにならないように外国人社員にわかりやすく事前に説明しておきましょう。
そこで本記事では、外国人社員に適用される脱退一時金の概要と注意点、また、どのようなポイントで外国人社員に説明したらよいかを解説していきます。
CONTENTS
- 1.年金脱退一時金が必要な背景
- 1-1.外国人技能実習制度の目的
- 1-2.年金脱退一時金を受給する条件
- 2.外国人に年金脱退一時金の説明が必要
- 2-1.手続きの流れや受給条件の説明は雇用契約を結ぶときに
- 2-2.年金脱退一時金を説明するときのポイント
- 3.外国人の年金脱退一時金の流れ
- 3-1.脱退一時金の請求書を取り寄せる
- 3-2.必要書類を準備する
- 3-3.脱退一時金の申請をする
- 3-4.脱退一時金の口座振り込み
- 4.外国人の年金脱退一時金の注意点
- 4-1.脱退一時金を請求するかどうか
- 4-2.脱退一時金の請求時期について
- 4-3.社会保障協定を結んでいる外国人
- 5.脱退一時金の計算方法
- 6.まとめ
1.年金脱退一時金が必要な背景
年金脱退一時金は、外国人労働者が帰国する際、これまで支払ってきた年金保険料の一部を本人に払い戻す制度です。
外国人が国民年金に加入していた場合も年金脱退一時金制度が適用されますが、ここでは法人に雇用されていた人を前提に、厚生年金の年金脱退一時金について説明します。
1-1.外国人技能実習制度の目的
日本人はもちろん、外国人労働者でも加入条件を満たしていれば、健康保険や厚生年金といった社会保険に加入しなければなりません。
老齢基礎年金を受給するには本来、65歳以上であり、10年以上の受給資格期間(年金保険料納付済みの期間)が必要になりますが、この条件を満たす前に雇用契約が終了して帰国してしまうと、支払った年金保険料が無駄になってしまいます。そのため、支払った年金保険料の一部を返還するのが年金脱退一時金です。
1-2.年金脱退一時金を受給する条件
年金脱退一時金を受給できるのは、以下の条件をすべて満たしている外国人です。- 日本国籍を有していない
- 厚生年金保険の被保険者でない
- 厚生年金保険(共済組合などを含む)の加入期間の合計が6カ月以上ある
- 老齢年金の受給資格期間(10年間)を満たしていない
- 障害厚生年金(障害手当金を含む)などの年金を受ける権利を有したことがない
- 日本国内に住所を有していない
- 最後に公的年金制度の被保険者資格を喪失した日から2年以上経過していない
(資格喪失日に日本国内に住所を有していた場合は、同日後に初めて、日本国内に住所を有しなくなった日から2年以上経過していない)
上記の条件にひとつでも当てはまらないと、年金脱退一時金を受給することはできません。
たとえば65歳以上で既に老齢年金を受給している場合、障害厚生年金を一度でも受給した場合、日本国内に住所がある場合、最後の公的年金制度の資格を喪失した日から2年以上経過している場合などです。
また受給資格期間が10年以上ある人も脱退一時金を受け取ることができず、65歳になってから日本の老齢年金として受け取ることになります。
2.外国人に年金脱退一時金の説明が必要
脱退一時金について、日本で手続きを行う人と需給する外国人が上手く連携できるよう、外国人本人にあらかじめ制度の概要や手続きの流れを説明しておきましょう。
2-1.手続きの流れや受給条件の説明は雇用契約を結ぶときに
脱退一時金についての説明は帰国直前ではなく、雇用契約を結ぶ段階で行うことが大切です。社会保険への加入は事業者にとっての義務ですが、事前に説明しておかないと意義が理解されず、加入を拒否されてしまうかもしれません。
外国人労働者が社会保険への加入を拒む主な理由は「将来的に帰国した際、支払った厚生年金保険料が無駄になるかもしれないから」でしょう。年金脱退一時金制度があることを知れば、多くの人がすんなり加入してくれるはずです。
2-2.年金脱退一時金を説明するときのポイント
受給条件や手続きについて事前に説明しておくことで、トラブルを防ぐことができます。どのような条件を満たしているときに年金脱退一時金を受給できるのか、手続きは誰が行うのか、どのような手続きが必要か、どれくらいの金額が戻ってくるのか……といったことです。できるだけ外国人に分かりやすい言葉と資料で説明してあげましょう。
年金脱退一時金の手続きを行うのは帰国後となるため、雇用契約終了後の連絡手段を確認しておくことも大切です。
3.外国人の年金脱退一時金の流れ
年金脱退一時金の申請から受給までの流れを解説します。
「社会保険の資格を喪失してから2年が経過していない」、「日本に住所がない」ことが条件なので、外国人労働者との雇用契約が終了し、本人が日本を出国した後に手続きすることになります。手続きをすることができるのは、外国人労働者本人または外国人労働者から委任を受けた代理人です。
3-1.脱退一時金の請求書を取り寄せる
脱退一時金を請求するのに必要な書類は「脱退一時金請求書」と「添付書類」の2種類です。
「脱退一時金請求書」は日本年金機構のサイト「脱退一時金に関する手続きをおこなうとき」からダウンロードできるほか、「ねんきんダイヤル」に電話することで郵送してもらえます。また、年金事務所や街角の年金相談センター、市区町村および自治体の国際化協会でも入手できます。
日本年金機構のサイト「脱退一時金に関する手続きをおこなうとき」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todokesho/sonota-kyufu/20150406.html
なお、脱退一時金の請求書は外国語と日本語が併記された様式となっており、以下の外国語に対応しています(2023年6月現在)。
英語/中国語/韓国語/ポルトガル語/スペイン語/インドネシア語/フィリピノ(タガログ)語/タイ語/ベトナム語/ミャンマー語/カンボジア語/ロシア語/ネパール語/モンゴル語
3-2.必要書類を準備する
「脱退一時金請求書」に添付する書類は以下のとおりです。
※年金Q&A
https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/2020042806.html
3-3.脱退一時金の申請をする
請求者(本人または代理人)が、脱退一時金請求書および添付書類を日本年金機構などへ提出します。
企業が代理人となる場合には、外国人労働者が退職する前に、「脱退一時金請求書」と「添付書類」に記載する内容を予め確認しておくことが大切。本人が帰国後に必要書類を揃えようとすると連絡が取れず、手続きが滞ってしまうケースが考えられます。なお、代理人が手続きをする際には、「委任状」が必要となります。
3-4.脱退一時金の口座振り込み
脱退一時金は提出した書類に不備がなければ、通常は約4か月後に支払われます(審査に時間がかかる場合は5〜6カ月後になる場合もあります)。脱退一時金の送金と同時に「脱退一時金支給決定通知書」が請求者(本人または代理人)に郵送される仕組みです。
なお、脱退一時金は、日本円ではなく、支給対象となる国ごとにドル、ユーロなどの外国の通貨で支払われます。為替レートは、支給決定された月の平均為替レートをもとに算定。申請書を提出した時点の為替レートではないことを認識しておきましょう。
4.外国人の年金脱退一時金の注意点
年金脱退一時金を申請する前に、注意しておきたいポイントがいくつかあります。
4-1.脱退一時金を請求するかどうか
脱退一時金を受給すると、脱退一時金を請求する以前の期間がすべて年金加入期間ではなくなってしまいます。また脱退一時金は受給資格期間6年を上限として計算され、それ以上長い期間にわたって年金を納付したとしても受給できる金額は同額です。将来また日本で働く可能性があり、通算で10年以上の受給資格期間(年金保険料納付済みの期間)となるかもしれないなら、老齢年金として受け取った方が金額は高くなるかもしれません。支給額をシミュレーションしながら慎重に検討すべきです。
4-2.脱退一時金の請求時期について
「日本国内に住所を有しない」ことが条件なので、日本年金機構へ請求書を提出するタイミングに注意する必要があります。出国前に日本国内から請求書を提出する場合は、住民票の転出日以降に提出します。また郵送で手続きをする場合には、請求書が転出日以降に到着する日程で送付しましょう。
再入国許可を受けて出国する場合も、転出届を提出していれば脱退一時金を請求することができます。しかし、転出届を提出していない場合、再入国許可期間内は原則として脱退一時金を請求することができません。再入国許可期限内であっても住民票が消除され、2年間の請求期限を過ぎてしまうケースがあるので注意が必要です。
4-3.社会保障協定を結んでいる外国人
日本年金機構は複数の国々(2023年6月現在、22か国)と「社会保障協定」を結んでおり、一定要件のもとで年金加入期間を通算し、日本および協定相手国の年金を受け取ることができる場合があります。その場合も年金脱退一時金を受給すると、その期間は年金加入期間ではなくなるので注意します。
5.脱退一時金の計算方法
年金脱退一時金で受け取れる金額は、下記の式で計算されます。ここでは2003年4月以降に雇用した場合で説明します。
被保険者だった期間の平均標準報酬額×支給率(保険料率×2分の1×支給率計算に用いる数)
※2 支給率とは、最終月(資格喪失した日の属する月の前月)の属する年の前年10月の保険料率(最終月が1月~8月なら、前々年10月の保険料率)に2分の1を掛けた数に、被保険者期間の区分に応じた支給率計算に用いる数を掛けたものを言います(計算の結果、小数点以下1位未満の端数がある場合は四捨五入します)。
支給率計算に用いる数は下記のとおりです。なお、下記表は2021年4月以降に最終月(受給資格が喪失した日の前月)を迎えた人の場合であり、それ以前の場合は36カ月(3年)が上限となります。
たとえば標準報酬月額が20万円、賞与が毎年40万円で3年間(36カ月間)、年金受給資格があったとするなら、平均標準報酬額は(20万円×36カ月+40万円×3回)÷36か月=233,333円となります。
その数字に支給率3.3を掛けた742,500円が支給額と計算できます。
雇用契約を結ぶ段階では平均報酬額が計算できないので、およその目安となる金額を伝えておけば良いでしょう。
6.まとめ
年金脱退一時金は外国人労働者が公的年金を納付することに、合理性を与えてくれる制度です。年金脱退一時金について正しく伝えることは、社会保険への加入を促し、安心して働いてもらうことにつながります。
彼らが帰国した後のことについても考えていることを伝えれば、外国人労働者からの信頼も一層深まることでしょう。
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