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【独占取材】テレ東・ガイアの夜明けが5年前に報じた「外国人技能実習生のブラック労務問題」に本気で取り組んだ日本人女性の話は、どうかもっと、知られて欲しい

2022年10月末。インドネシア政府と監理団体JOE協同組合が技能実習生受け入れのプロジェクトの締結を発表。若者の失業率が高まるインドネシアでは労働大臣が訪日するなど、注目を集めた。その舞台裏にどのようなドラマがあったのか。JOE協同組合の北沢氏を徹底取材した。

ガイアの夜明けが報じた「外国人技能実習生のブラック労務問題」

2017年末に「ガイアの夜明け」で放送された「外国人技能実習生のブラック労務問題」(※1)が大きな話題になった。



まとめると、こうだ。


  • 残業未払いや、最低賃金を下回る条件など、劣悪な環境で働かせる一部の日本企業
  • 技能実習生の受入れごとにキックバックを得る日本の一部の監理団体
  • 悪徳な送り出し機関などからベトナムの平均年収の3倍を超える100万円を超える借金を背負う実習生もいる
  • その借金の返済に追われ、少しでも条件のいい仕事を得るために失踪する実習生が後を絶たない(※2)


あまりにも多くの闇を取材した衝撃の放送だった。ネットがザワつくレベルではない。


その影響力はすさまじく、放送の2日後に法務省、厚生労働省および関係各所が連名でが注意喚起を行った(※3)。メディアの取材の影響で省庁が注意喚起をすることは極めて異例である。


今回の主人公、現・JOE協同組合の北沢智子代表理事(以下、敬称略)は、「震えるほどの怒り」をおぼえながらその番組をリアルタイムで観ていた。
番組放送時の2017年末、北沢は大手人材派遣会社・綜合キャリアグループの敏腕営業パーソンとして辣腕をふるっていた。彼女は「一人でも多くの人に雇用を生み出す」という信念の元、自動車業界への営業で競合を圧倒する凄腕として業界内ではちょっとした有名人だった。


北沢 智子(きたざわ ともこ)JOE協同組合代表理事。
大手人材会社で国内HR事業に20年余携わり、大手メーカーを中心に全国多数の取引先を開拓し人事課題の解決や人材サポートのノウハウを確立。2018年よりグローバルな時代に対応できる教育とスキルアップ事業を開始、2021年1月より現職。


彼女が担当していた自動車業界が外国人労働者の雇用に積極的という背景もあり、外国人労働者の受け入れ事業を検討していたその矢先に、先の「ガイアの夜明け」の放送を観たと言う。


放送を観て北沢はすぐに動いた。当時、所属していた綜合キャリアグループ(現・キャムコムグループ)の代表・神保紀秀氏に直訴したのだ。


「社長!外国人労働者事業を行う為には、不当な搾取や違法行為を是正していく必要があります。現地を直接知りたい。私をベトナムに行かせてください」


ガイアの夜明けという影響力のあるテレビ番組によって、業界の闇が露呈した直後。大企業の社長であれば尻込みしてもおかしくない状況だった。


「わかった。行ってこい」


神保氏は二つ返事でこう言った。北沢の熱意が勝ったのか、それとも神保氏が相当な変わり者なのか。


北沢は取るものもとりあえず、キャリーケース一つで単身ベトナムへ渡航する。


コネもツテも情報も、何一つない状況で。

接待に弱い日本人と接待が得意な悪徳業者。そしてガイアの夜明け以上の闇


単身ベトナムに渡航した北沢がみたものは、「ガイアの夜明け」で見た闇よりも更に深い闇だった。


彼女のみたものはこうだ。


  • 一部の企業が悪徳な送り出し機関などから高額な物品や性接待を受けている
  • 現地の悪徳な送り出し機関はブローカーを複数使い、本人から手数料を徴収。更に監理団体へのキックバックも本人が徴収

「とあるビルの地下室にある『キャバクラ』で送り出し機関から接待されるんですよ、日本企業の男性たちは。とてもかわいらしい、若い女性にね。そのまま上にあるホテルの部屋に女性を連れ出せるようなお店ですよ。当時、私が在籍していた綜合キャリアグループは接待を一切しない会社でした。加えて私は女性なので……。衝撃的な光景でしたね」と、北沢はつぶやく。


業界の闇について語るとき、北沢の眼光は鋭くなる


当時は日本の外国人技能実習生の受け入れは中国が7割を超えるような状況だったが、中国が豊かになるにつれベトナム人の受け入れ比率が徐々に増加していた。


ちなみに、中国の次にベトナムからの外国人技能実習生の受け入れが増えたのは、中国の技能実習生を受け入れた際の「悪徳送り出し機関」が、賃金の高くなった中国からより安い労働力をベトナムに求めた結果とも言われている。


そんな中でも北沢は諦めずに戦略を練った。「ベトナムの送り出し機関にも自分と同じように『労働問題への志』を持ってくれる人はいるのではないか」と信じて。


彼女は当時、ベトナムに200以上あった送り出し機関から悪評が比較的少ない60の機関を調べ上げた。


「接待はしないし、されない。お互いフィフティ。キックバックも一切なし。通常の手数料以外は何一ついらない。普通のビジネスをしよう」


北沢は自力で交渉を続け、ベトナムで信頼できる送出し機関を開拓していった。

生半可な覚悟では乗り切れない「家族が殺される」と言う切実な声、そしてコロナ禍

北沢の努力によって開拓された、まともなベトナムの送り出し機関。彼らと組めば、クリーンなビジネスとして技能実習生の受け入れができるはずだった。


しかし、同時に北沢はひとつ疑問を抱いた。知れば知るほど深い業界の闇にベトナム人の技能実習生側が一切の声をあげないという現実だ。


北沢の出会ったベトナム人技能実習生はこう言ったそうだ。


「わたしがベトナムの送り出し機関や日本の監理団体を告発したら、家族が殺されてしまいます」


家族の命を人質に取られ、彼らは日本に来ている。


ベトナム人技能実習生の声を聞いて北沢は思う。


「大変な世界に足を踏み入れてしまった」と。


ベトナムの技能実習生、その家族、そして彼女の所属する会社や、そもそも自分の身すら案じる必要にまで追い込まれる可能性が高かった。


「これはもう監理団体を自分で立ち上げるしかない。時間をかけてでも」


北沢の辞書に“諦め”の文字はなかった。


北沢は「監理団体の設立」を所属先の社長、神保氏に進言した。認可制の事業であるため、すぐに開始することはできない中、「それならば」と監理団体の設立にあたり、いずれ必要となる技能実習生のライフサポート、日本語の教育や文化を学べるビジネスの立ち上げを先行して行った。


安心してベトナム人の技能実習生が来日できる仕組みを、すべて作ってしまおうと考えたのだ。


先の「ガイアの夜明け」の放送から1年半後にJOE組合設立、約2年を経た2020年1月。北沢は監理団体の認可へとこぎ着けた。


しかし、時を同じくして新型コロナウィルスが蔓延する。先が見えない渡航制限の中、外国人技能実習生受け入れビジネスは事実上ストップした。


またしても北沢に逆風が吹いた。

コロナ禍だからこそ出来た事、インドネシアに見つけた活路

外国人労働者の「供給」が絶たれたなかでも北沢は諦めなかった。技能実習生のライフサポートの仕組みをより充実させてコロナ禍の収束を待つことにした。


代表的なものは以下だ


  • 日本語をいつでも勉強できるコンテンツの提供
  • 24時間母国語の対応してくれるコールセンターの設置

外国人技能実習生に安心して働いてもらえるためのサービスを推し進めている最中、北沢はインドネシアのとある情報を耳にした。


インドネシアは25歳以下の若者の失業率がアジアで非常に高い国で、その悩みは「国策」が必要なレベルに高まっていると言う。


北沢は、わずかな渡航可能期間を利用してインドネシアの開拓に乗り出す。


「『コロナはいつか必ず明けるはず』と信じていました」と北沢


「残念ながら、インドネシアにも監理団体と送り出し機関の不適切な関係は多かった」と、北沢。


島の数が世界で5番目に多いインドネシアでは政府の監視が行き届きづらい事情もあるようだ。ベトナム以上に悪い条件だ。


一方で、インドネシアはイスラム教徒が9割近い国でもある。お酒の接待はしづらいという文化は北沢にとって有利な状況もまた、あった。


「ベトナム開拓」の時と同じように愚直にインドネシアの送り出し機関を開拓するなかで、北沢は大きなチャンスを掴んだ。インドネシア国営の職業訓練局の総局長を紹介してくれるという人と出会ったのだ。


ここから、今までの北沢の苦労はまるで嘘だったかのように、一気に話が進み出す。


「ベトナムでの経験を踏まえて、慎重に交渉したんです」と、北沢は言う。


インドネシア国営の職業訓練局の総局長に対して、日本で稼ぎたい需要がインドネシアの若者にあるにもかかわらず、不適切な関係に使われる費用が本人の負担となり、多額の支払いが必要である構造的な負を語ったのだ。


「この制度を利用した、業界にはびこる悪徳を排斥して、日本に行きたい若者の学びと修行をともにバックアップしませんか?」


青臭いまでに正論をまくし立てる北沢に、インドネシア国営の職業訓練局の総局長は言った。


「僕らは、そういう悪徳な送り出し機関の認可を一発で停止することができる。ただ、実はそういう話が入ってこないんだよ……」


ベトナム人の技能実習生が語っていた「家族を人質に取られている」状況がインドネシアにもあるのだろう。


先にも述べた「島が多く監視の目が行き届きづらい」インドネシアの事情もあったはずだ。


若者の失業率が高まるインドネシアの事情。ベトナムと変わらない、不透明な費用徴収や事業体制。


「それならば」と北沢はアイデアを出した。


「インドネシア政府が技能実習生を支援してはどうですか?支援があれば悪徳送り出し機関や紐づく監理団体を介在させなくても技能実習生を日本に受け入れることができる」と。


自身が代表を務めるJOE協同組合は


  • クリーンな受け入れ機関であること
  • 外国人技能実習生への教育機関を持っていること

コロナ禍で整備した強みを武器に北沢は交渉を続けた。


「インドネシア政府が不適切な関係や不透明な費用徴収にメスを入れ、技能実習生を支援すれば、悪徳な団体は必要なくなるはず」


北沢の正論にインドネシア政府も共感、かねてからの計画を動かすこととなった。


インドネシア政府は北沢に、手始めに160人の技能実習生の支援を約束。


これが、冒頭のインドネシアでも注目を集めたニュースに繋がっていく。


左:インドネシア送出し機関連合体AP2LN BUDI会⻑
中:JOE協同組合 北沢代表理事
右: インドネシア労働移住省 BUDI総局⻑

私の手柄でも何でもない。私は外国人技能実習生の受け入れを「本来あるべき姿」に戻しただけ

北沢のプロジェクトは動き出し、インドネシア政府関係者も来日し教育施設を視察。労働大臣も大きな関心を寄せ、冒頭のニュースとなった。


「一人でも多くの雇用を創出したい」


北沢は言う。


「端からみたら私の行動は不可思議なことかもしれないですね」


たしかに、北沢は『志』のみで突っ走れる不思議な人だ。


その『志』の源泉はなにか?


それは至ってシンプルだ。


「一人でも多くの雇用を創出したい」


前所属先の神保氏と初めて会った時に神保氏が北沢に話した『志』。


神保氏と北沢の出会いから、長い時間を経て北沢はいま、思う。


「安い労働力として外国人労働者を雇用するだけでは生まれるものが少ないと思いませんか?地球上で安い労働力を求めた先に何があるんでしょうね。私はそういうの嫌なんですよね」


そう北沢は言う。


「もっと詳しく話して欲しい」と筆者。


北沢は少しだけ考えて、こう口にした。


「そうですね……。明確な答えは、今の私にはまだないですけれど。『安く買って高く売る』ことだけじゃない、文化の交流とか、そこから生まれるシナジー効果とか、そういう『人類の可能性』を信じてみたいんですよね」


なるほど、神保氏と北沢の『志』は、人類同士の搾取の歴史を焼き直しを繰り返すことへの抵抗なのかもしれない。


とても青臭い発言ではあるが。


筆者は、北沢の功績をたたえた。しかし、北沢はこう返した。


「私の手柄ではないんです。『本来あるべき姿』に戻しただけなんですよ私は。業界の深い闇に抵抗しただけです。これって当たり前のことですよね?」


北沢はどこまでも謙虚で、かつ『志』のみで動く人だ。


さて、筆者は今回、北沢の『志』を存分に聞いた。読者の皆さんは、どうだろうか?


神保氏とインドネシアのイダ・ファウジヤ労働大臣と記念撮影を嬉しそうに見守る北沢

大きなキャリーケースを引きずり東奔西走する北沢には簡単に会える

まだまだ、聞きたい事がある方は、後述する北沢に連絡先に問い合せてみてはどうか。


問い合わせれば、きっと北沢はすぐに皆さんの前に現れるだろう。


北沢はいつどこの国に行ってもいいように、どこの誰とでも会えるように、荷物が詰まったキャリーケースを常に引いて歩いている。


北沢の準備は、いつだって万全だ。


取材の当日も、北沢は大きなキャリーケースを引きながら現れた。


前日に某大手自動車メーカーと「自腹の忘年会」をした結果、本人いわく「むくんだ顔」を気にしていたが、それでも快く撮影にも応じてくれた。


取材当日も、北沢は大きなキャリーケースを引きながら取材現場に現れ、そして後にした。


彼女はいつだって、大きな荷物を抱えながら闊歩しているはずだ。


「一人でも多くの雇用を創出したい」


神保氏と初めて出会った、その日の『志』を胸に世界中を飛び回っている。


大きなキャリーケースを引き、東奔西走し続ける北沢の小柄な背中に、日本の良心を見た気がした。





【参考】

(※1)「日経スペシャル ガイアの夜明け」バックナンバー2017年12月12日 放送 第794回放送”絶望職場”を今こそ変える!

https://www.tv-tokyo.co.jp/gaia/backnumber4/preview_20171212.html

(※2)入国時に決まる失踪確率。ベトナム人技能実習生と送り出し機関×ブローカーの実態。

https://kjtimes.jp/recruit/agency/0104/

(※3)送り出し機関との不適切な関係についての注意喚起(2017年12月14日)(法務省入国管理局入国在留課/厚生労働省海外人材育成担当参事官室/ 外国人技能実習機構監理団体部)

https://www.vn.emb-japan.go.jp/files/000325599.pdf

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