ちょっとそこまで行ってきます

ワタシ、青山智香は外国人材を雇用する企業や雇用される側の外国人が抱える課題を解決・サポートする業務に携わっている、いわゆるキャリアアドバイザー。

実はこれまでも珍事の解明に取り組んできたのだが、企画が変わってワタシ自身が密着取材を受けることになってしまった（これまでの珍事はこちらからどうぞ）。



ひとえに
「外国人雇用の現場は予想だにせぬ出来事の連続である」
今日はそうした珍事をつまびらかにしながら私たちの仕事をご紹介していきたいと思う。


2023年4月23日　13:00 千葉県　××株式会社
ベトナム人技能実習生のはなし

「ボク、ちょっとそこまで行ってくる」彼はそう言い残し、部屋を出て行ったという。



私は今、スリャさんとサンジさんが暮らす寮にやってきていた。15時から部屋の巡回の予定が、たまたまアポがなくなったため、午後イチで寮に到着したという状況だ。

お昼に連絡したところサンジさんは1日、家に居るということで、2人でスリャさんの帰りを待っている。サンジさんによれば「ちょっとそこまで」と言っていたそうなのだが、果たしてスリャさんはどんな所に出かけていったのか。未だ帰る連絡すらない彼に、サンジさんは「いつものことだ」と言わんばかりに両肩を上げる。

一方の私はというと

一方の私はというと…。
日頃できないケアができればと100均で裁縫セットを購入し、穴の開いた靴下を縫っていた。ベトナムでは靴下を履く習慣がほとんどなかったらしく、2人から靴下が何足あっても足りないと相談を受けていたのだ。
そもそもそうならないためにも、適宜、爪切りをすることと併せて、ライフハックとして破れた足先をサッと縫うだけで作業用の靴下としてまだまだ使える、ということを実演していた。靴下だって安くない。マメで節約家のサンジさんは喜び勇んで衣装ケースからつま先に穴が開いた靴下を取り出してきた。

さて、スリャさん。本来、15時からの巡回なので10分前ぐらいに帰ってきてくれれば全く問題ないのだが、家を出たのは10時過ぎ。
真面目な性格のスリャさんが遊び歩いて帰ってこないなんてことは想像できないにしても、もうすぐ4時間が経とうとしている。
何かトラブルに巻き込まれているのか？しかし、私とて予定外に早く訪問している身。せっかくの自由時間は好きにさせてあげたい。



14時35分。
スリャさんが帰ってきた。手には小さなビニール袋。中にはくしゃくしゃに丸まったティッシュが入っていた。鼻をすすっている様子から花粉症なのがわかる。

「スリャさん、どこに行ってたのー？ちょっとそこまでって言うから、もっと早く帰ってくると思ってたわよ」

すると、スリャさんはニコッとしてこう答えた。

「茨城県です。暖かくなったから、自転車は暑かったです。花粉症の薬、飲んでいったけど鼻水が出て大変でした！」

い…茨城県だと？！こちら千葉県なんですが。
キミの「ちょっとそこまで」は隣の県まで含むのかー！

終