特定技能【漁業分野】で外国人を雇用する方法
2024.04.26
近年、日本の漁業は深刻な人手不足により衰退の一途をたどっています。農林水産省はさまざまな支援を行って、漁業の人手不足解消に努めていますが、「生産性の向上及び国内人材の確保に向けた最大限の努力を行ったとしてもなお、人手不足の状況を直ちに改善することが困難である」と発表しています。そこで今、外国人労働者を漁師として雇い入れる方法が注目されています。 本記事では、2019年4月に新たな在留資格として誕生した特定技能「漁業」で外国人労働者を雇用する方法について詳しく解説します。
CONTENTS
- 1.特定技能「漁業」が誕生した背景
- 2.特定技能「漁業」とは
- 3.特定技能「漁業」の取得ルート
- 4.特定技能「漁業」で外国人を雇い入れる要件
- 5.特定技能外国人の受け入れ費用
- 6.特定技能外国人雇用の流れ
- 7.まとめ
1.特定技能「漁業」が誕生した背景
特定技能「漁業」が誕生した背景には、日本の深刻な漁師不足の現状があります。 全産業の有効求人倍率が1.5倍であるのに対して、漁業は漁船員が3.5倍、水産養殖作業員が2.5倍を超えます。
なぜこんなにも人手が足りないのでしょうか。これには大きく分けて二つの要因があります。
まず一つ目が、漁師の高齢化です。地方の漁村では50代が若手とされており、2018年時点で65歳以上の漁業従事者が38%を占めています。彼らは順次引退していきますので、次世代の担い手が出てこない限り廃業になってしまう可能性があります。
そして二つ目が、若者の漁師離れです。高齢化の現実で述べたとおり、漁師になってくれる若者がいないと後継者不在で廃業になってしまいます。しかし漁師という職業は「きつい・汚い・危険」といったイメージが強い上に、漁船のメンテナンス、漁具の消耗、漁獲量の不安定さなど構造的な問題があるため、収入が多くありません。漁業経営調査報告によると、2021年時点の漁労所得は約227万円となっており、一般サラリーマンの収入の半分程度しかありません。安全で安定した仕事を求める若者にマッチしないのも頷けます。
2.特定技能「漁業」とは
特定技能とは、労働人口の減少が加速する産業分野において、人手不足解消のため、一定の専門性・技能を持つ外国人を労働者として受け入れる制度です。特定技能「漁業」を使えば、外国人が日本の「漁業」に従事できるようになります。
2-1.対象業務
特定技能「漁業」で従事できる業務は、漁業と養殖業です。業務内容は以下の通りです。
・漁業 漁具の製作・補修、水産動植物の探索、漁具・漁労機械の操作、水産動植物の採捕、漁獲物の処理・保蔵、安全衛生の確保 など
・養殖業 養殖資材の製作・補修・管理、養殖水産動植物の育成管理、養殖水産動植物の収穫・処理、安全衛生の確保 など
その他、同じ業務に従事する日本人が通常行うとされる関連業務は、特定技能外国人も行うことができます。ただし、あくまでメインの業務に関連する付随業務として許可されている業務ですので、例えば漁具の点検や船体の清掃、漁獲物の選別、仕分けなどの関連業務のみに従事することはできません。
2-2.雇用形態
直接雇用と派遣雇用があります。 通常、特定技能では直接雇用しか認められていませんが、漁業分野については季節的な要因などで業務量にばらつきがあるため、派遣雇用も可能になっています。
2-3.給与水準
日本人と同等以上の給与水準が求められます。最低賃金や勤務時間外の労働に対しての扱いも日本人と同等でなければなりません。外国人であっても日本の労働基準法が適用されますので注意してください。
2-4.受け入れ可能な期間
特定技能1号では、通算5年までの受け入れが可能です。特定技能外国人は閑散期などに一時帰国することを許可されていますので、繁忙期だけ日本へ来て働くこともできます。この場合、日本で働いた期間だけを通算して数えればいいので、例えば毎年1~6月の間だけ日本で働くとすると、帰国期間も合わせて10年間特定技能外国人を雇用することができます。
なお、令和5年6月に特定技能2号の対象分野が拡大されたことにより、漁業分野においても在留期間の制限のない2号移行が可能になりました。具体的な試験など詳細は今後明らかになっていきますが、今後の動向に期待が持てます。
2-5.転職
特定技能では転職が可能です。ただし、同一の業務区分内もしくは技能水準の共通性が確認されている業務区分間のみに限定されますので、例えば漁業分野から農業分野へ転職するなど、他の業種への転職はできません。
3.特定技能「漁業」の取得ルート
特定技能「漁業」を取得するには、「技能試験と日本語試験に合格する」ルートと「技能実習2号から移行する」ルートがあります。
3-1.技能試験と日本語試験に合格する
まず、漁業技能測定試験という技能試験に合格する必要があります。漁業技能測定試験は、漁業に関する知識を確認する試験となっており、業務区分「漁業」と「養殖業」で試験が分かれています。それぞれ学科と実技があり、両方の合格が必要です。
次に、日本語能力試験JLPTのN4以上、もしくは国際交流基金日本語基礎テストに合格する必要があります。日本語能力N4以上とは、日常生活においてゆっくりであれば会話が理解できるレベルです。
3-2.技能実習2号から移行する
技能実習2号の漁業分野を良好に修了することで、特定技能「漁業」へ移行が可能です。技能実習2号から移行の場合は、必要な技能および日本語水準は満たしているものと考えられますので、技能試験と日本語試験は免除されます。 特定技能「漁業」に移行可能な業務は、以下の通りです。
・漁業(8作業) カツオ一本釣り漁業、延縄漁業、いか釣り漁業、まき網漁業、ひき網漁業、刺し網漁業、定置網漁業、カニ・エビ・かご漁業
・養殖業(1作業) ホタテ貝、マガキ養殖
4.特定技能「漁業」で外国人を雇い入れる要件
特定技能「漁業」で外国人を雇い入れるための要件は、以下の通りです。
・漁業特定技能協議会に加入すること・同協議会に必要な協力を行うこと・支援体制を構築すること
4-1.漁業特定技能協議会への加入
外国人を受け入れる企業は、水産庁が設置した漁業特定技能協議会に加入する必要があります。特定技能外国人を受け入れた日から4カ月以内に加入しなければなりません。
4-2.協議会に必要な協力を行う
協議会へ加入後は、現況調査などの活動協力が義務付けられます。協力を求められた際には必ず必要な協力を行わなければなりません。
4-3.支援体制
受け入れ企業は、外国人が日本で安定かつ安心して働くことができるよう支援を行うことが義務付けられています。事前ガイダンスや生活オリエンテーション、住居の確保や定期的な面談など10の支援項目が法律で定められており、これらの実施をまとめた支援計画を作成、体制を構築します。自社で支援が難しい場合は、登録支援機関に委託をします。
5.特定技能外国人の受け入れ費用
特定技能外国人の受け入れ費用には、人材紹介料、在留資格申請費用、支援費用などがあります。
5-1.人材紹介料
受け入れ企業が直接募集をかけることも可能ですが、採用工程に外国語を使用する必要があるため、人材紹介会社を利用するのが一般的です。 人材紹介料:約30万円
5-2.在留資格申請費用
技能実習から特定技能への在留資格変更も、新たな在留資格申請も、いずれも出入国管理庁への届出が必要になります。必要書類の作成や手続きには専門的知識が必要なため、外部委託するのが一般的です。 在留資格申請費用:約10万円
5-3.支援費用
外国人支援計画の実施費用です。 登録支援機関へ委託する場合:約2~3万円(月額)
6.特定技能外国人雇用の流れ
以上をまとめると、特定技能外国人を雇用する流れは以下の通りです。
ステップ1:受け入れ予定の外国人が特定技能「漁業」の資格を有しているかの確認 ステップ2:登録支援期間の選定(受け入れ企業での支援体制構築が困難な場合) ステップ3:雇用条件・給与の決定 ステップ4:求人募集(自社ホームページやSNS掲載、登録支援機関や民間職業紹介機関に人材紹介を依頼、日本語学校と連携、人材紹介会社へ委託するなど) ステップ5:在留資格申請(許可が下りるまで約1~3カ月) ステップ6:入社(現地の大使館でビザ発給後、来日入社)
7.まとめ
特定技能「漁業」は、即戦力としての外国人雇用を想定していますので、一定の知識や経験が必要です。もし特定技能で雇用するハードルが高ければ、すでに日本にいる外国人技能実習生をターゲットに、特定技能への切り替えを考えることもできます。また今後、特定技能2号への移行が本格的に開始されれば、母国にいる家族の帯同も可能になりますので、日本移住を希望する外国人にとっては念願の資格になるでしょう。
本記事を参考に、特定技能「漁業」で外国人の雇用を検討してみてはいかがでしょうか。
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