入国時に決まる失踪確率。ベトナム人技能実習生と送出機関×ブローカーの実態。
2021.08.04
技能実習生の失踪については、度々ニュース等で報告されるようになりました。わざわざ母国を後にして実習に来た日本で、なぜ失踪してしまうのでしょうか。失踪者数の傾向と、その背景を詳しく解説します。また、失踪によって受入企業が受けるダメージも非常に大きなもの。そのため、失踪を防ぐために効果的な監理団体の選び方もご紹介していきます。
失踪の主要因は、入国前の多額の借金。その内訳や原因は?
2017年に失踪した技能実習生は7,089人。うち3,751人、約53%がベトナム人実習生でした。なぜ、他国と比べて圧倒的に多いのか。その原因は、多額の借金です。彼らが日本に来るためには、送出機関への手数料などに加え、ブローカーへの謝礼金などを負担しなければなりません。その額を失踪者のみで平均すると80万円ほど。その内60%は100万円以上を支払っています。
ベトナムでは1人あたりの月間平均所得が1万8500円程度(387万ドン=7月23日時点のレートで換算、ベトナム統計総局の統計より)であることから、負担の厳しさがおわかりいただけるでしょう。そこまでしてチャンスを得た「ジャパンドリーム」ですが、就業してみると月の収入は10万円をやっと越える程度(法務省調査より)。母国で聞いた夢物語は誇張されたものであり、計画したとおりには貯金できないことが発覚します。このままでは、予定額の貯金どころか3年間では借金の返済すら不可能なことに気づき、やむを得ず失踪⇒不法滞在(不法就労)することになるのです。
募集ブローカーに支払う謝礼金
技能実習の希望者は、ブローカーの紹介で送出機関の採用面接を受け、合格すればブローカーに謝礼金を支払います。ブローカーは組織ではなく、地域の有力者であったり、高等教育機関の教師であったり。その他にも親戚などの身近な人物の場合もあります。このような個人間で金銭のやり取りが発生するのは、ベトナムには「人から紹介を受けた場合は謝礼金を支払う」という風習があるからです。
問題は法外な金額の請求でも支払ってしまうこと。適正金額を見分けるためには情報の取捨選択が必須ですが、SNSなどに溢れている情報の中でどれが信頼に足るものか判断できないのです。しかも相手は有力者や親戚などですから、信じてしまいやすいという理由もあります。もし選択を誤っても「有力者から紹介された」という体でいれば責任を問われにくいため、この現状を受け入れてしまう素地があるとも言えるでしょう。
送出機関に支払う手数料問題
送出機関に支払う金額の上限は法律で決まっているのにもかかわらず、守られていない実態があります。技能実習生の受け入れまでには関わる各機関が、それぞれに過度な利益を求めることが原因です。なぜ、送出機関は法定の上限を超えた手数料を要求するのか。その仕組みを以下の2点からご説明します。
- 手数料が高騰する理由(募集に関する費用)
- 手数料が高騰する理由(監理団体の要求によるもの)
手数料が高騰する理由(募集に関する費用)
送出機関は、自社で技能実習の希望者を募る場合と、ブローカーを利用する場合があります。ブローカーに依頼すると、面接参加者を紹介された時にも、希望者を対象国へ送り出した後にも報酬を支払うことになります。特に現在はコロナ禍で、惣菜製造業のような工場内での作業など、これまで募集が難しくなかった職種でも採用の難易度が高い傾向に。そのためブローカーから面接希望者を紹介された際に、追加料金を請求されることになるのです。その料金を、技能実習希望者から受け取る手数料に上乗せしている可能性があります。
また送出機関は、技能研修希望者が問題なく実習ができるようにするため、国内での教習を行います。その際にかかる寮費や食費、水道光熱費を徴収。こちらの費用も上記の手数料も、自身の利益を増やすために、法律で決められた上限を超えて請求する状態が蔓延しているのです。
- 技能実習希望者をブローカーから紹介された際の謝礼金
- 上記の際に、募集の難度が高い職種なら追加料金
- 送出以前の教習に関わる寮費や光熱費などの費用
- 希望者の出国後にブローカーに支払う謝礼金
⇒上記に送出機関の利ざやを上乗せして技能実習希望者に請求される
手数料が高騰する理由(監理団体の要求によるもの)
ルールを守っていないのは、送出機関だけではありません。悪質な手数料問題を他人事として放置している監理団体もあるのです。それどころか、送出機関に対してキックバックや接待を要求している監理団体まであります。当然、しわ寄せはすべて実習生に。求人数以上に希望者が多いため、受け入れ側の立場が高くなっているのです。しかし法令で報酬を受け取ることは禁止。発覚して許可を取り消された監理団体もあります。
受け入れ企業は、この状況を改善するためにもクリーンな監理団体を選んでいく必要があります。不当な金額を負担させることには倫理や法令の問題もありますが、冒頭でご説明した通り、入国前の負担が大きいほど失踪の可能性も高まるのです。突然の失踪によって受ける痛手を避ける意味でも、監理団体を見極める目を養うべきでしょう。優良団体の認証制度や啓蒙に努めている民間団体もありますので、ぜひ役立ててください。
送出機関にの中には、実習生負担を軽減するための努力をしている機関もある
送出機関という立場から、実習生の負担を減らす活動をしている企業もあります。一番の特徴は、ブローカーを排除していること。不透明な金銭のやり取りをなくし、過度な手数料をカットすることで、技能実習生が過度な借金をしないようしているのです。例えば現地で日本語学校を運営している企業は、自社の生徒を中心に技能実習生として日本に送り出しています。また別の企業は法定手数料のみの請求を厳守し、かつ寮費や水道光熱費を一切無料化することで、出国までの費用を日本円にして50万円未満に収めています。
同時に、すでに行われているブローカーを挟んだ送り出しを撲滅しようという活動も。希望者がブローカーから説明を受け、申し込み用紙を記入するスペースに警告文を掲示。「ブローカーに対して紹介料を払わないように」という内容の警告を発しています。
優良な送出機関を選ぶためのポイント
信用に足る送出機関かどうかを判断するのは、重要でありながら難しいポイントでもあります。確認するために、以下のような質問を用いてみてください。質問への回答内容とあわせ、オープンマインドで回答してくれるかどうかも大切です。
◆請求する金額 ◆これまでの失踪者数 ◆求人の条件 ◆受け入れリスク ◆日本語教育のレベル ◆実習生に対してどのような説明をしているか ◆実習生のケア(対応エリア・スタッフ数などを確認) ◆キックバックはあるか
以上のような質問をしたうえで、より慎重に見極めたい場合には、ベトナム人技能実習生の送出機関を専門に紹介しているサイトが助けになるでしょう。現地の担当者が独自に取材を行い、送出機関の魅力を発信しています。このようなツールを活用していくことにより、受け入れ側が十分な情報をもったうえで選択ができるようになるはずです。
Sending Navi for Vietnamのサイト : https://sendinginstnavi.asia/about/
まとめ
受け入れ企業にとっては直接の関わりがない送出機関ですが、見る目を養っておくことは大きなメリットに繋がります。監理団体に対して、送出機関をリクエストすることが可能だからです。監理団体が契約できる送出機関は、ベトナムの場合では過去の実績から決定され、多くは3社から5社となっています。
その中から選ぶわけですから、全てを監理団体任せにするのではなく、信頼できる機関を自ら見極めて提案することが大切です。信頼できる送出機関を通して、実習生が過度な借金を負わされずに来日できるということは、失踪が起きやすい現状を打破できるということ。それにより、実習生は3年間の実習期間を全うしやすくなるということです。外国人技能実習制度を適切に継続させていくために、そしてお互いに意義のある3年間とするためにも、ぜひ送出機関の選び方を知ってください。
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