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「熟練の職人をインドネシアへ派遣」リフォーム工務店の海外人材育成戦略【ROY株式会社】

生活関連

2025.12.10

人手不足が「日常」となった現代。労働力確保のために「海外人材」の雇用に乗り出す企業が増えている。

一方で心理的なハードルは根深い。現場に手が足りないのは事実だが、どう採用するのか? 入職後は仕事をどう教えるか? トラブルは起きないのか? など、未知であるがゆえの不安は大きいだろう。

そこで、本連載では海外人材活用の第一線を走る企業に取材。業界・職種を問わず最適な第一歩を踏み出し、新しいビジネス共創力と競争力を得るための人事戦略とマインドセットを探る。

今回のインタビューは、建築物の内装・外装・水回りのリフォームや害虫駆除事業をメインに手がけるROY株式会社。業界特有の人材難、職人の育成などいくつもの壁に向き合った結果、大規模な「インドネシア人材採用」に舵を切った。

その人事戦略と実践のポイントについて、同社・海外事業部長と、日本で実際に働くインドネシア人材の方に話を聞いた。

 

■PROFILE

ROY株式会社 海外事業部長 八津尾 宗之さん

施工部 アジ マウラナ さん

 

「匠の技を継承するため」海外人材活用をスタート

 

ROY株式会社は神奈川県川崎市に本社を置き、国内19拠点を展開。住まいの悩み事に幅広いメンテナンスを提供してきた工務店である。

その海外人材活用の背景には、業界特有の課題があった。同社・八津尾 宗之 海外事業部長はこう語る。

 

「国内の建築・リフォーム業界では、慢性的な人手不足と職人の高齢化が進み、技術継承の断絶が現実味を帯びています。リフォームをはじめ、住まいのニーズは尽きません。しかし現場には若手が集まりにくい。事業を支えてくれた職人は高齢化し、やがて引退を迎えていきます。高度な施工技術をどう受け継ぐかは切実な問題でした」

 

ROY株式会社 海外事業部長 八津尾 宗之さん

 

こうした状況を打破するため、同社が模索しはじめた一手が「海外人材の活用」だった。求人広告を打ち、はじめて社内に外国籍の従業員を迎えたのは2021年。ひとりのベトナム人材だったという。

 

「あくまで試験的な採用という面はありましたね。当時は『日本人ばかりの職場になじめるのか』『職人の技術を教えられるだろうか』と、先行きはまったくわからない状態。戦力化というよりも可能性を探る段階でした」

 

ROYのような言葉の壁がある中での、手探りの教育。待ったなしで職人が減っていく将来に向けて、どうすれば一緒に働けるのかを現場で試していった。建設業界でなくても、人事担当者はまず「即戦力」でなく、出来る限り余裕を持ったうえでの試験的な海外人材活用のスタートをすすめたい。

 

インドネシアに研修センター設立 人材育成の要は「職人の現地派遣」

 

インドネシアにあるROY 建築研修センター

 

徐々にノウハウが蓄積されていった2023年、同社に大きな転機が訪れる。

 

「当社経営層がインドネシアに日本語学校を運営している方とコネクションを得て、現地での人材育成に参画することになったのです。そこから技能実習生のインドネシア人材を主軸とした人事戦略を立てはじめました。監理団体(技能実習生の受入れ機関)も含めてのワンストップの対応です」

 

インドネシア国籍は、近年急速に日本へ流入が進んでいる海外人材だ。とはいえ、活用のための課題は山積していた。現地には日本語学校も設置され、日常的なコミュニケーションはとれるが、ベトナム人材と同様に文化の違いもある。

 

何よりの問題は「仕事をどう教えるか」だった。家づくりは間取り・水道・電気などの知識に加え、高所作業などの技術や工法の理解も必須になる。さらに工事となればひとりでは作業は完結せず、仲間との意思疎通も作業のクオリティに影響する。匠の技がものをいう業界に海外人材を招くにあたって、ROYが考え出した方法は極めて大胆だった。

 

「私たちは自社の熟練職人を『教育係』としてインドネシアの学校に派遣し、直接仕事の基礎を教えることにしました。工具や機材も持ち込み、日本の工事現場と同じ状況をインドネシアに再現すれば、日本ならではの家づくりやメンテナンスをまるごとインドネシアの方に教えられると」

 

教育を担う職人は誰でもよいわけではない。技術力だけでなく「教える力」も重視して選抜した。それは自社のビジネスを引っ張ってくれる経験豊富な職人を現場から遠ざけることにもなるが、未来のためにリスクをとることを選んだ。



「コストはかかりますが、最初から日本式の基準を教えるにはこの方法が最適なんです。もちろん、いきなり一人前に育てることなどできません。あくまでスタートラインに立ってもらうための教育ですが、それだけでも非常に覚えることが多く、特殊です。例えば、日本の工事現場には、金づちを『なぐり』、手押し車を『ネコ』と呼ぶなど、道具の名前ひとつとっても職人が使う専門用語があります。しかも地域ごとに呼び名が違うこともあるのです」

 

そんな用語を日本語学校で学べるはずがない。建築業界を支えるクローズドな知識教育はまさに試行錯誤の連続だった。そのなかでインドネシア人材の特性や良さにも出会う。

 

「インドネシアの方々は日本のアニメや映画などのカルチャーに幼い頃から触れ、“日本で働きたい”という強い思いを持っている人が多いですね。大人になれば海外で出稼ぎし、家を支えるという文化があるため、みなさん積極的で真面目です。集中力も、組織への貢献意識も高い。それが私たちにとって非常に大きな追い風になりました」

 

広がる「インドネシアからの職人」の活躍 

ROY インドネシア技能実習生の方々

 

当初は1~2名規模の小さな採用だった。しかし徐々に人数を拡大し、現在は31名いる海外人材のうち24名をインドネシア人材が占める。手探りのスタートから、同社の事業の中核を担う存在に成長しはじめている。

 

企業の担当者にとっては、海外人材を迎え入れたあとの就労にも不安がつきまとうが、ROYでは日本にきた後の働く環境づくりにも工夫がある。

 

「社宅を準備し、最低でもWi-fiは完備。業務連絡はインドネシアで普及しているアプリ『WhatsApp』とLINEを併用し、彼らでもストレスのないようコミュニケーションしています。

大切なのは『日本人と分け隔てなく公平に接する』ことですね。例えばインドネシアの方の多くはムスリム教徒で、毎日決まった時間にお祈りをし、女性はヒジャブをかぶるのが常識ですが、これではヘルメットをつけて工事などできません。なぜ工事の各種規則が必要なのかを順序だてて説明し、日本のルールを守って働いてもらうことが『公平』です」(八津尾さん)

 

文化が異なるからこそ、同じルールで働く努力をする。過度な配慮や優遇もまた、偏見から来るのだろうと感じた。日本での入職後も、日本人の職長が現場で日本語や仕事を継続的に教えているという。

 

実際に、海を渡って日本に来たインドネシアの海外人材は、日本での就労をどう感じているのか。今回は、2024年からROYで技能実習生として働くアジ・マウラナさんにも話を伺うことができた。

 

「家族を支えるため、海外での働き先を探していました。就労先に日本を選んだのは、インドネシアには日本語学校が充実していて、給与も良いからです。手取りのうち7割ほどを、実家に送ることが出来ています」(アジさん)

ROY株式会社 施工部 アジ マウラナ さん

 

アジさんは現在21歳。ジャワ島にある住民7〜8万人の都市・チアンジュールの出身だ。ROYが提携している日本語学校に通い、就労を開始した。日本では、ROY本社近くの社宅に同期のインドネシアの方と住んでいる。

 

「社宅には個室があって、日本での暮らしはとても快適ですね。こんなに電車やバスが通っている場所はインドネシアにはありません。アニメやマンガで日本のことを知りましたが、行きたかった秋葉原の街も実際に見ることができて嬉しかったです」(アジさん)

 

日本語力はN4レベル(日常会話程度の読み書き)を基準にしているという。インタビューの質問もしっかり理解し、ゆっくりではあるが、言葉を選んで間違いのないよう答える。仕事内容はどう感じているのか。

 

「現場では屋根の補強と水漏れのメンテナンスをしています。高所作業にやっと慣れてきたところです。建築の専門用語も難しいですが、最近は後輩のインドネシア人に用語を教えられようになってきました」(アジさん)

 

アジさんと話し、とても実直な人物という印象を受けた。家族を助けるという目的が、職場への貢献意識にも繋がっているのだろう。



そしてROYの専門的な教育を受けたインドネシア人材は、業界内から引く手あまたの状況になっている。今後の展開について八津尾さんはこう語る。

 

「自社だけでなく、関連するリフォーム業者どうしのネットワークや、大手ゼネコンの現場にも人材を供給しています。評価はとても良いですね。日本人が持っている非常に高い衛生感覚を理解し、バックグラウンドであるムスリムの戒律をうまく日本の建築現場のルールとすり合わせるなど、当社で細かな研修を受けたインドネシア人材の方は充分に日本の職人を手伝うことができるのです」(八津尾さん)

 

業界構造的な課題があり、若手が集まりにくくなっていた日本の建築業は、他のレガシーな業界と同様、現在も衰退の危機にある。しかしROYはベンチャー精神あふれる工務店ならではの発想で海外人材を育成し、「ひと」が資本の業界を若返らせつつある。

 

「当初は日本人がすべて現地で教える体制でしたが、数年かけてインドネシア人材の中からリーダーが育ち、教育を担えるようになってきました。これは大きな進歩であり、継続的に取り組んできた成果です」(八津尾さん)

 

受け入れ前/就労開始後での企業の仕組み化された取り組みが、組織のあり方を好転させていく成功例である。インタビューの最後にアジさんは「インドネシアにいる兄弟も、日本で働きたいと言っています」と答えてくれた。

 

海外人材を採用する人事担当者へ

海外人材の活用は「人手不足だから仕方なく」ではなく、会社が一丸となり積極的に取り組むべきものです。

しかし、最初はどうしたらいいかわからない、という人事の方がいても当然ですよね。

そんなときは、まず海外人材の方が実際に働いている現場を見てほしいと思います。

自分の目で見ること。それだけで距離が近くなり、想像力が働きます。一緒にビジネスを前進させていく仲間を探す第一歩になるでしょう。

当社にも同業種・異業種含めて何社も見学にいらっしゃいます。ご興味があれば、いつでもお越しください。

 

■取材協力

ROY株式会社

https://roy-g.com/company/

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