キャリアアドバイザー伊能ゆりなの事件ファイルVol.5
私たち、近所の人に通報されました

ワタシ、伊能ゆりなは外国人材を雇用する企業や雇用される側の外国人が抱える課題を解決、サポートする業務に携わる、いわゆるキャリアアドバイザー。日本で働きたいと願うひとりでも多くの海外の方に、負担のないクリーンな就職環境を提供できるよう日々、さまざまな業務にあたっている。
実はこれまでもメンバーとともに珍事の解明に取り組み、全国を走り回っている（これまでの珍事はこちらからどうぞ）。

ひとえに
「外国人雇用の現場は予想だにせぬ出来事の連続である」
今日はそうした珍事をつまびらかにしながら、私たちの仕事を紹介していきたいと思う。

紅葉狩り

秋も深まり、屋外で過ごすのに心地よい季節となった文化の日の今日、海外メンバーとお楽しみ会をすることになった。ちょうど、紅葉が楽しめる季節に差し掛かっており、こうした機会に母国料理を持ち寄ろうと言われていた私は、おやつ担当を任され、昨日から仕込んでいた餡で「おはぎ」を作っていた。



できた「おはぎ」は重箱に詰めて持って行くつもりだ。きっと、日本文化が好きなみんなは重箱入りの「おはぎ」を見たら喜んでくれるだろう。…といっても、これは100均で買ってきたもの。ちょっとチープだけど、一緒に菓子切りとミニお盆、和紙も用意して、日本らしい演出ができたらいいな。

そんなことを考えながら準備をしていると、テレビから『紅葉（もみじ）狩りって、何で紅葉狩りっていうの？』という声が聞こえてきた。



確かに、獲物を狩るわけでもないのに、紅葉狩りという。なんでだろう…。そもそも、海外メンバーで紅葉を見に行くことを紅葉狩りと表現するのを知っている人は、何人いるだろう？私自身、気になる内容な上に、今日の話題にもピッタリだ。

時間が気になりつつも、テレビに耳を傾けながら、洗い物をすることにした。

━紅葉狩りはその文字の並びから“何かを狩る”“何かを獲る”と勘違いしている人もいるでしょう。
日本に現存する最古の和歌集「万葉集」に『紅葉』や『黄葉（もみち）』という言葉が出てくることから、紅葉狩りは1200年以上も前から存在していたと推測できます。
では、なぜ“狩る”のでしょうか。

実際に紅葉したもみじの枝をポキポキ折ったりする…

わけではありません。シチュエーションを想像して、なんとなくそうした理解をしている人がいるかもしれませんが、その言葉の由来はもっと別のところにあります。

“野山に出かける”のがポイント！

日本では“野山に分け入り、季節の恵みを探し求める”ことを、広く狩りと呼びました。例えば、キノコ狩り、蛍狩り、潮干狩りなどがそうですね？……



「なるほど、確かにそうだ。でも、キノコ狩りや潮干狩りは実際に獲得物があるんだけどな（笑）」思わず、手を止めてテレビに映る紅葉に見とれてしまっていた私は、独り言をつぶやいていた。日本語の由来、面白さは、30年日本人をやっていても楽しめる。

時計を見ると、そろそろ家を出ないといけない時間になっていた。急ぎ支度をして電車に飛び乗った。

苦情

たぶん、この辺にいるだろうという場所に向かうと、ちょうど警察官が立ち去る場面に出くわした。



よく見ると知った顔が並んでいる。顔を赤らめたクオンさんにチャンさん。うつむき加減に座り込んでいるのは…ヒエンさん？周囲には空き缶が数本転がり、おつまみの袋が散らばっている。さらに、ハンディスピーカーが2つ。食べ物や飲み物が入ってそうなバッグやビニール袋がベンチに置かれている。

「みんな早かったね？で…、今、これはどういう状況？」

聞かずともわかるのは、全体周知していた時間より早く集まったメンバーで、1次会ならぬ0次会をしていたのだろうということ。しかしここは、公園入口。おまけに、道向いにはアパートや家々が立ち並んでいる。待ち合わせ場所で宴を始めるとは、さすが海外メンバー。近所を巡回中の警察に注意されたのだろうか？



すると、奥に居たハンさんがそろそろと近づいてきて事の次第を教えてくれた。

「早く来た4人が、カラオケ始めました。スピーカーと私たちの歌がうるさくて、警察が来ました。『住民から苦情がきた』と言ってました。公園で飲食をすること自体はダメではない。でも、迷惑かけないようにと言われました」

なるほど。単なる飲み食い騒ぎだけではなく、大音量でカラオケをしていて近隣住民に通報されたといったところだろうか。

「みんな、警察官に言われたことわかった？日本は自分がOKなら良いわけじゃないの。周りの人はどうだろうって考えられないと、ルールやマナーは身に付かないからね。今日は、せっかく紅葉も綺麗で天気も良いから公園内外の人たちに迷惑がかからないよう考えながら、お酒や食べ物を楽しみましょう」

「はい…」

そんな話をしていると、後ろから「お待たせしましたー！」と元気な声がした。クエンさん、ミイさん、リーさん、ファンさんが連れ立ってきた。

「ゆりなさんー！私、おはぎ、楽しみにきました。まだ1度しか食べたことないですが、おいしかったです」

リーさんが私のバッグをのぞきこんでくる。

「はい、じゃあ、みんな移動するよ！ゴミは袋にまとめて持って帰る！！階段上がって、紅葉が綺麗なところに行きましょう。私、シート持ってきたからー」



皆でその場をきれいに片づけると、私を先頭に紅葉狩りへと向かった。

終