【元入管職員が明かす】入管は探偵で大家さん⁉︎
2025.07.11
「入管」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?
空港でパスポートにスタンプを押す、少し近寄りがたい職員の姿でしょうか。
元入管職員で、現在は社会保険労務士として企業の外国人雇用をサポートしている私から見ると、そのイメージは半分正解で、半分違います。実は入管は、部署ごとに全く異なる顔を持つ「変幻自在の組織」。そして、その審査プロセスは皆さんが想像する以上に「奥が深く」、時にドラマチックなのです。
今回は、私が実際に経験した「入管のリアル」を通じて、企業が外国人雇用で成功するためのヒントをお伝えします。
元入管職員の女性社労士がお届けする
~タイムス大学 外国人雇用のいろは講座10 特別編~
熊本大学法学部を卒業後、法務省福岡入国管理局にて外国人の入国・在留審査に従事。その後、地元に戻り、出産・育児を経て鹿児島大学や就労支援施設で事務職や助成金申請業務に携わりながら、行政書士および社会保険労務士の資格を取得。現在は法律事務所での勤務と並行して、あきは社労士・行政書士事務所を運営し、外国人雇用や在留資格に関する労務相談、障害年金請求を専門に、企業や個人への法的サポートを提供しています。instagramはこちらから。
入管=巨大アパートの管理人
〜はじめに〜
「出入国在留管理局(通称:入管)」で働く「入国審査官」の仕事について、わかりやすくご紹介します。まず、日本という国全体を、ひとつの「巨大なアパート」と想像してみてください。このアパートには、さまざまな国から人々が訪れ、一定のルールのもとで暮らすことができます。その“管理人室”にあたるのが、入管です。
入管の主な役割
- 巨大アパートを安全・円滑に運営するため、入管は以下のような業務を担っています。
・ 誰を入居させるか?(=在留資格の認定)
→ どんな人が、どんな目的でアパートに住もうとしているのか。
入居を許可するかどうかを慎重に審査します。
・ きちんと暮らしているか?(=在留資格の更新・変更)
→ 入居後も、ルールを守って暮らしているか。
必要に応じて、在留資格の更新や変更を行います。
・ 問題があった場合は?(=退去強制)
→ 重大なルール違反があれば、退去をお願いすることも。
法に基づき、適切な措置をとります。
これらの業務は、さまざまな専門部署によって分担され、日々行われています。

部署別の役割紹介
1.在留審査部門 = “敏腕探偵チーム”
この部門は、まるで“現代の探偵事務所”のような存在。
提出された申請書類をもとに、記載内容の真実性や整合性を見極めます。
「この人は本当に目的通りに来日するのか?」
「偽装結婚ではないか?」
「企業の実態はあるのか?」
調査対象は多岐にわたり、表面的な情報の奥にある“真実”を探る力が求められます。
2.空港の審査官 = “国境の番人”
最も一般的に知られている入管職員が、空港などで働く入国審査官です。
彼らは、毎日何千人もの渡航者を、たった数十秒のやりとりで審査しています。しかし、それは単なる「スタンプ押し」ではありません。
・ パスポートの偽造を見抜く洞察力
・ 不自然な言動を察知する観察眼
・ 表情の違和感に気づく直感
まさに「国境の最前線」で、国家の安全と秩序を守るプロフェッショナルです。
入管とは、「見えない守り人」
入管の仕事は、あまり目立つことはありません。
ですが、「誰が日本に入るか」「誰が日本に住むか」は、社会の安定に直結する非常に重要なテーマとなります。巨大アパートの秩序を保つため、彼・彼女らは日々、見えないところで目を光らせています。日本の玄関口として、そして暮らしの安全を守る管理人として。
それが、入管の使命です。

なぜ、入管の審査はこれほど厳格なのか?
入管の審査は、なぜこれほどまでに厳格なのでしょうか。
その理由は、単に「規則だから」ではなく、一枚の申請書類に込められた「人生の選択」が、国の判断によって大きく左右されるという現実があるからです。
申請する人にとっては、日本で働くこと、学ぶこと、家族と暮らすこと──そのすべてが、この審査にかかっています。つまり、私たちは毎日、「誰かの将来」に直結する重大な決断を下しているのです。
さらなる理由は、現実は性善説だけでは成り立たないということ。
残念ながら、制度の隙を突いた不正申請や虚偽の申告が存在するのも事実です。例えば、偽装結婚、架空の雇用契約、存在しない学校への留学など……表面だけを見ていては、真の目的を見抜けないケースが後を絶ちません。
だからこそ、入管職員は単に「疑う人」ではなく、事実に基づいた判断を下す“チェックのプロ”でなければなりません。
『申請者を公平に扱いながら、一方で日本の秩序と信頼性を守る』
その両立のために、書類の一行一行、面接の一言一句に目と耳を研ぎ澄ませて、慎重かつ客観的に真実を見極めます。入管の厳格さは、単なる「門番の厳しさ」ではなく「人生の扉」を開けるかどうかを預かる者としての、責任と敬意の表れと言えるでしょう。

企業が「敏腕探偵」に目をつけられないための3つの鉄則
〜審査官は“見抜くプロ”であることを忘れずに〜
企業が外国人を採用・雇用するうえで、入管審査を「書類を通せば終わり」と捉えていると、大きなリスクを抱えることになります。入管審査官は、日々膨大な情報と向き合い、「制度を悪用しようとするケース」と「本当に必要な人材を迎えたい企業」とを見分ける“敏腕探偵”であり、この審査を正しく理解することは、企業の信頼性の維持とコンプライアンス体制の強化に直結します。
では、企業が審査で不必要な疑念を持たれないために、何を意識すべきなのでしょうか。
ここからは、入国審査官の目線を踏まえた「3つの鉄則」をご紹介します。
1. 事実に基づいた、筋の通った申請書類を作る
「なぜこの外国人を採用するのか?」
「どの業務を任せ、どう成長させたいのか?」
これらの問いに対する明確なストーリーと合理性が、申請書全体を通して一貫していなければ、審査官の信頼は得られません。職務内容やキャリアプランの説明が抽象的で曖昧な場合、「見せかけの雇用ではないか?」と疑念を持たれる可能性が高くなります。単なる“外国人採用の希望”を述べるのではなく、企業としての採用方針・人材戦略の中で、なぜこの人材が必要なのかを具体的かつ客観的に示すことが大切です。
2. 「許可=終わり」ではなく、「入国後が本番」と心得る
入管の審査は「許可を出したら終わり」ではありません。実は、在留資格が認められた後も、審査官は“現場”を見ています。必要に応じて就労実態の確認や企業への立ち入り調査も行われるため、申請時に説明した業務内容と、実際の業務が異なるような場合には、不許可や取消し、最悪の場合は退去強制処分につながることもあります。
・ 申請書に記載した職務と実際の配属先は一致しているか
・ 業務内容は適正に管理されているか
・ 労働条件(給与・労働時間など)は約束どおりか
「どうせ見られないだろう」「バレなければいい」――この考えが、最大のリスクです。
むしろ、「いかに見られても問題がない状態を日常的に維持できているか」が、企業としての信頼につながります。
3. “誠実さ”こそ、企業を守る最大の武器
入国審査では、姿勢や態度も判断材料の一つになります。虚偽の申告、ごまかし、強引な主張、高圧的な態度などは審査官の警戒心を一気に強め、企業としての信用を大きく損ねます。逆に、たとえ不備やミスがあっても、誠実かつ迅速に対応する企業は、入管側からも「協力的で信頼できる相手」と評価されます。
「わからないことは素直に確認し、必要な情報は正確に提出する」この姿勢が、審査の円滑化だけでなく、長期的に安定した外国人雇用体制の構築にもつながるのです。
4.信頼こそが、最良のリスクマネジメント!
外国人材の採用は、グローバルな成長戦略の一環であると同時に、法令順守と制度理解が求められる高度なマネジメントです。入管との関係性において最も重要なのは、「必要なことを、正しく伝える力」と「裏切らない誠実さ」。これを土台にした企業活動こそが、将来の不安やトラブルを最小限に抑え、結果的に最も効率的な道となることを心得てください。

まとめ:入管審査への「きちんとした対応」が、企業の未来を左右する
ここまでご覧いただいたとおり、入管審査は法的・実務的に高度な判断が求められる専門分野です。申請書一枚に対しても、審査官は裏付け・整合性・信頼性を多角的に検証しており、そこに「なんとなく通るだろう」という甘い見通しは通用しません。つまり、入管対応はもはや“形式的な手続き”ではなく、企業の信頼性と持続可能性を左右する経営課題の一つなのです。
入管は、労務・税務と並ぶ企業経営の「専門領域」
労働基準法や税法と同じように、出入国管理法もれっきとした法律です。そして、その運用は常にアップデートされており、実務対応にも専門性が問われます。
「外国人を雇用するからには、適切なルールを理解し、守る体制を整える」
これは企業としての社会的責任であると同時に、リスクを最小限に抑え、継続的に外国人材を活用していくための前提条件でもあります。もちろん、自社内に知識と経験を持つ担当者が育てば理想的ですが、それが難しい場合は、行政書士や社労士など、信頼できる専門家との連携も強力な選択肢となります。
不確実な独自対応を繰り返すよりも、最初から正しい手順を踏む方が、結果的にはコストも時間も抑えられるでしょう。
「優秀な外国人材の確保=入管対応の質」にかかっている
グローバル競争が激化する中で、優秀な外国人材を安定的に受け入れ、活躍できる環境を整えられるかどうかは、企業の競争力に直結するテーマです。どれだけ魅力的な求人を出しても、在留資格が取得できなければ採用は実現しません。逆に言えば、「入管対応の質」は、採用力そのものとも言えます。
企業の成長を支える人材戦略の中で、入管への“きちんとした対応”は、もはや不可欠な柱です。短期的な手続きの話ではなく、中長期的に「信頼される企業」として制度の中で外国人材を生かせるかどうか。その分かれ道は、日々の準備と姿勢にかかっています。
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