「日本人と外国人に違いはない」
吉野家ホールディングスの海外人材の活躍推進 10年の歩み
2025.11.12
1899年に魚河岸の個人商店として誕生した「吉野家」は、24時間営業の開始や朝時間帯限定メニューの導入など外食チェーンとして日本初となる数々の試みに挑戦し、125年以上の歴史のなかで長く愛され続ける事業基盤を築き上げてきた。
そんな吉野家が海外人材の活躍をさらに推進するため、“グローバル人材戦略室”を立ち上げたのは2016年。
もちろんそれ以前から吉野家を始めとする多くの飲食店には留学生を始めとする外国人アルバイトが働いている風景が見られた。しかし特定技能制度が始まったのが2019年であることなどに鑑みても、吉野家は海外人材の活躍推進においてもパイオニア的な存在だと言っていいだろう。
1975年の米国のデンバーへの出店から50年。
更なる海外人材の活躍推進から10年。
世界の人々へと目を向け続け、日本の飲食業界を牽引してきた吉野家ホールディングスへの取材により、私たちが企業として目指すべき“多様性”のあり方が見えてきた。
■PROFILE
株式会社吉野家ホールディングスグループ人事本部 採用戦略部 部長 緒方博志さん
“すべての人々のために”が海外人材推進の原動力

吉野家ホールディングスの皆さん。(提供:吉野家ホールディングス)
そもそもの始まりは経営理念にあった。吉野家ホールディングスの海外人材の活躍推進が強化されていった背景について、採用戦略部・部長の緒方博志さんは次のように語る。
「外国籍の方に対して特別に何かをしようという考えはありません。あくまで『For the
People』という経営理念のもと、国籍や性別、宗教観などで選ぶことなく働ける環境を作っていこうというのが始まりであり、そうした意識は私たちが組織として最初から持っていたものでもあります」
現在では中国やタイ、ミャンマー、ベトナムなどのアジア圏を中心に、イタリアやドイツなど、文字通り国境を問わない幅広い国と地域の人材が吉野家で働いている。
とはいえ、ただ雇うだけでは正しい意味での“推進”とは言えない。たとえば、言語の壁は多くの日本企業に海外人材の採用を躊躇させる大きな要因のひとつにもなっている。
吉野家では全ての新入社員を幹部候補として、マネジメント能力を育成するため、店舗で接客業務を習得してもらう。そのため、採用基準のひとつとして、日本語での会話が一定出来る能力があることを採用基準の一つとして定められている。だが、まず必要なのはそれだけだ。
「吉野家ホールディングスの一員としての接客ができる日本語レベルというのは求めています。ですが、それ以外に日本人と外国人を分ける採用基準はありません。特定技能1号で入社している方の一部には日本語のフォローが必要な場合もありますが、社内で勉強会を開くなどして対応しながら、仕事や職場環境に慣れていけるよう臨機応変にサポートしていきます」
もちろん、海外人材活用の壁は言語だけではない。生まれ育った場所が違うことで生じる文化の齟齬も、場合によっては入社後のトラブルの種になりかねない重要な要素だ。
こうした問題の解消のため、吉野家では正社員を対象に「グローバル受け入れ研修」を実施してきた。「研修の目的は文化の相互理解」と緒方さんが言うように、ポイントは外国籍の社員だけではなく、店長やエリアマネージャー、営業部長などマネジメント層も一緒に研修対象となっている点だ。現在、この「グローバル受け入れ研修」は新型コロナウイルスの影響で中止になっているが、新たに計画されている日本語が不得手な外国籍の方との円滑なコミュニケーションに向けた研修と合わせて再開が検討されている。
吉野家ホールディングスの新入社員の25.5%が外国籍――海外人材活用の成果と課題
既に述べた通り、吉野家は10年程度前から海外人材活用の本格的な取り組みを始めてきた。吉野家ホールディングス全体での海外人材の採用数は年々上昇傾向にあり、直近の新入社員の25.5%が外国籍の方【吉野家HD 新卒・中途実績25.5%(9月1日時点)】だという。また、緒方さんは取り組みの成果について次のように話す。
「日本人と外国人を区別する意味ではないが、組織のなかで様々な個性を持つ方が増えたからこそ、多様な意見が出ることで新しい視点を発見できたり、ディスカッションの質も高まっていると感じます」
1975年の米国出店を皮切りに、中国、インドネシア、シンガポールなど海外に1,003店舗
(2025年7月末)を構える吉野家が海外1,500店舗という目標を掲げて取り組むさらなる海外進出を成し遂げるためにも、こうした組織の多様性は欠かすことができない。
だが採用を強化してきた反面、これから生じうる課題についても次のように感じている。
「技人国ビザで採用した際、ビザの取得要件である“専門性が高い仕事”に従事してもらう必要があり、弊社の場合は管理職になってもらわなければいけません。今はまだあくまで可能性の話ですが、今後も更なる採用を続けた場合、会社がさらに成長し規模を大きくできなければ、管理職ポストの数が足りなくなる可能性が生じうると推測しています。
従いまして、中長期的には海外への出店などをさらに強化し、企業成長による管理職のポストがこれまで以上に必要となるような状態を構築し、海外人材がさらに活躍できる場をつくれるかが、企業として腕の見せ所ですね」
話してくれた緒方さんの表情は柔らかいが真剣だった。ただ雇うだけではなく、“すべての人々のために”企業ができること/すべきことに本気で向き合っている吉野家ホールディングスの覚悟が伺えた。
管理職にも通底する“共に汗を流して働く仲間”という考え

すべての社員のキャリアはここからスタートしていく。(提供:吉野家ホールディングス)
吉野家ホールディングスは日本人も海外人材も関係なく社員1人ひとりが理想的な融合を果たしている組織だと言える。これまでに壁にぶつかったことはなかったのだろうか。
「弊社では昔から、都市部の店舗では特に顕著に、アルバイトとして多くの海外人材の方が働いてくれていいます。その中で、言語や文化の部分でうまくいかなかったことはたくさんあったはずです。それでもお互いにフォローしあいながら、少しずつ経営理念に沿った今の考え方が定着し、当たり前にしようとやってきています。
また、弊社のほとんどの管理職は営業である店舗を経験してから昇格しています。さらに社長に関しても、3代続けて店長経験者です。ずっと外国籍の方と一緒に協力しながら働いてきた人間が店長からエリアマネージャーになり、本部社員になり、役職に就いていくので、経営理念も上から下へ伝えていくというのは少し違うのかもしれません。むしろ、上に上がっていく過程で、『For the People』に基づいた働き方や考え方がさらに身についていくんです。国籍以前に、キャストさん、スタッフさんはみんな一緒に汗を流す仲間だという認識が経営層にも根付いています」
現場で共に汗を流す仲間だという意識。それは上から理想や目標を押し付けることでは生まれない。1人ひとりが真剣に働き、自ら手に入れた実感だからこそ、吉野家は強い。
創業者である松田栄吉氏が愛した奈良・吉野の桜のように、吉野家の事業活動はこれからも世界の様々な場所で咲き誇っていくだろう。そのために海外人材は欠かすことのできない存在だ。そして、日本人にとっても外国人にとってもより働きやすいと思える組織を作っていくことは、常に新しい試みで業界を牽引してきた吉野家ホールディングスが背負う必須のミッションなのだ。
■取材協力
株式会社吉野家ホールディングス
住所:
〒103-0015
東京都中央区日本橋箱崎町36番2号 Daiwaリバーゲート18階
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