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偽装か、真実の結婚か ―婚姻ビザに隠された“生活のにおい”
キャリアアドバイザー伊能あやめの事件簿Vol.39

生活関連

2025.08.01

これから外国人材の雇用を予定している人もそうでない人も!!

異なる人種、文化、価値観に触れる時
― 外国人って、どんな人たちなんだろう
― どんなことに気をつけたらいいんだろう
― 日本人や日本の文化をどう思ってるんだろう
などなど、不安や疑問に思うこと、ありますよね。

この記事は、実際に起きた珍事を元に、外国人雇用の現場に携わる人々の戸惑いを描き

「外国人材の皆さんと、どんなふうにコミュニケートしたらよいの?」

のヒントが隠れる、異文化理解の橋渡しを目的としたノンフィクションストーリーです。

キャリアアドバイザー伊能あやめの事件ファイルVol.39
偽装か、真実の結婚か ―婚姻ビザに隠された“生活のにおい”

今日は元入管職員であるA氏から聞いたおはなし。



ある年の冬、入国管理局(以降、入管)で働くA氏(以降、私)のもとに、一通のビザ申請が届いた。

申請者は田中夫妻の妻、フィリピン人女性、28歳。配偶者は42歳の日本人男性。出会いのきっかけは知人の紹介とされ、交際期間はおよそ半年、すでに婚姻届も提出済みだという。婚姻ビザの申請内容としては一般的で問題ないように見えた。

しかし、私は書類を確認する中で、ある違和感を感じた。

「生活の写真があまりにも少ない」
「住所地は男性の実家なのに、親族との関係が一切記録されていない」
「婚姻届が提出された日が、女性の短期滞在ビザの期限ぎりぎりである」

――どれも些細なことのように思えるが、私にはそれが、まるで不自然な点の集合体のように感じられた。

昨今は外国人(移民)受け入れが常態化し、婚姻関係を偽装してビザを不正に取得しようとする者が後を絶たない。

上司に相談した結果、本件については居住実態調査を行うことが決定した。

※この調査はもちろん法的根拠に基づき、プライバシーに配慮しつつ慎重に行われる。

実態調査(田中さん宅)へ

数日後、指定された住所に到着した私は、まずその家の外観や近所の様子を観察した。家は平屋の古びた一軒家。周囲の家々と比べるとだいぶん年季が入っているように見えるが、綺麗に掃除された玄関、植木鉢には黄色とオレンジのマリーゴールドが咲き誇り、細やかな手入れが行き届いている様子が伺えた。また、表札に書かれた名前も「田中」で一致していた。

インターホンを鳴らすと、中から現れたのは、申請者マリアさんの夫、田中××さんだった。

「こんにちは、入管のAです。少しお話を伺ってもよろしいですか?」

私の姿を見て、××さんは一瞬たじろいだものの、すぐに状況を理解してくれた。そして

「マリア(奥さん)は今、買い物に行っています。そのうち戻ると思います」

と言うと、入室を促すジェスチャーをしてくれた。

「なるほど。すみませんね、急に来てしまって。マリアさんが帰ってこられるまで外で待たせていただいてもよろしいですか?」

「そうですか…。わかりました、どうぞ」

ほどなくして、マリアさんが買い物から戻ってきた。

生活の足跡

「すみません、それではお邪魔します」

改めて××さんが玄関に現れ、スリッパを用意してくれた。

ぐるりと室内を見回してみる。
それなりに家具や雑貨が揃っていて、一応それっぽい雰囲気はある。しかし、申請には××さんの実家とあり、この生活感が過去の居住者を含む誰によるものかまではわからない。時に巧妙な手口を使う申請者も存在するため、確たる証拠がほしい…。

続いて、奥のキッチンスペースを覗かせてもらう。キッチンはおおよそ奥さんの管理下であることが多いので、ここに手がかりが隠れている可能性はおおいにある。

「こちらも拝見しますね」

出窓部分に鍋などの調理器具が積み上げられ、その横に食器棚と調味料やその他雑貨が所狭しと並んでいる。

よく見ると、その中に見慣れない調味料がいくつかあり、私が知っているものでいえばフィリピンの発酵エビペースト「バゴーン」があった。日本の家庭ではあまり見かけない異国情緒漂うその調味料は明らかに生活に溶け込んでおり、ラベルの濃い緑が一部、手垢で白くなっていた。

さらにその隣にある冷蔵庫の扉には、生活の足跡=メモが貼られている。箇条書きと数字の羅列から推測するに、何かのレシピのようだ。このメモはマリアさんが書いたものなのだろう。私の視線に気付くと、恥ずかしそうに下を向いた。

機転を利かせた××さんに「もしよかったら」と通された洗面所には2色の歯ブラシ、ベランダには布団が干され、テレビ横のカレンダーには2人の予定らしきものが書き込まれていた。

これら一つひとつは確かな“生活の痕跡”と言える。

念のため、生活の様子についても尋ねてみた。

「家計はどのように管理されていますか?例えば、食費、光熱費など一通りここでの生活を証明できそうな物とか、ありますかね?」

すると、マリアさんは近くの戸棚から家計簿らしきものを取り出し、今月のページを見せてくれた。そこには、2人分の電気代や水道代、食費などが細かく記され、封筒に光熱費の請求書も入っていた。許可を得てページをめくると半分過ぎたあたりに「HappyBirthday」という1ページがあり、出かけた場所や食べたものなどの記録が残されていた。

「おっと。デートの記録ですかね。失礼しました」

顔を上げノートを戻しながら2人に目配せすると、××さんは初見だったのか驚いた顔でマリアさんを見つめた。マリアさんは、まるで密かにつけていた日記がバレてしまったというような表情で、パタパタと顔を仰いでいる。

——2人の絆が、ここに“確かに”存在する。
「偽装夫婦」という言葉を使うにはあまりにもかけ離れた、自然な日常がそこにはあった。

隣人(鈴木さん)の証言

謝意を告げ、田中家を出ると、隣家の住民にも話を聞いてみることにした。隣人は「鈴木さん」という、この地域に昔から住むご夫婦のようだ。

※正確な調査のためには、周辺住民からの情報も非常に重要かつ有効なのである。



「ご多忙中すみません。私、こういう者でして……」

玄関から顔を覗かせた鈴木さん(奥さん)にご挨拶し、事の経緯を説明した。最初はキョトンとしてた奥さんも

「あら、道理で見ない顔!遠くからご苦労さまです」

と事情を飲み込むと、にこやかに応対してくれた。

「田中さん家の奥さんよね。最初はすごく驚いたけれど…なんせ外国人なんだもの!でも、マリアさんといったかしらね。すごくしっかりしているの。庭の掃除をしていたり、色々…ほら、ゴミ出しもちゃんとしてるわよ。日本語はあまり上手じゃないけど。それに、お正月に我が家の“おにしめ”を持って行ったら、すごく喜んでくれてねぇ……」

鈴木さんの奥さんの言葉は、田中さん夫婦が“ここの家、ここの地域で生活している”という厳然たる証拠となった。

「私も、主人も、何度か話したけど、田中さんも奥さんも、すごく感じの良いご夫婦よ。お互いに支え合って頑張っているのね」

ここまで聞けば、2人の将来も間違いないだろう。

私は鈴木さんにしっかりとお礼を言い、その場を後にした。

数週間後、田中さん夫婦のビザ申請は無事に許可され、一件落着となった。

入管の仕事、そして私たち

このように、A氏の仕事、つまり入管の仕事は、決して“人を疑う”ことが目的なのではない。彼らは事実を確かめること、そしてその人が日本で「どう生きようとしているのか」を見極めることだ。

日頃から外国人受け入れの最前線にいる私たちや、入管職員だったA氏はもちろんのこと、雇用主や同じ地域に住まう人なども含めると、1人を受け入れるにあたりたくさんの関係者が存在することがわかる。その一人ひとりが、職務や地域住民として正しく彼、彼女らに向き合い、理解し、共に生活していかねばならない。

「遠慮することなく、適切に」

これが、外国人受け入れ成功の鍵となるのだから。






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