合理的にあり得ない
～キャリアアドバイザー青山智香の解明～

ワタシ、青山智香は外国人材を雇用する企業や雇用される側の外国人が抱える課題を解決・サポートする業務に携わっている、いわゆるキャリアアドバイザー。
実はこれまでも珍事の解明に取り組み、全国を走り回っている（過去の事件はこちらからどうぞ）。

ひとえに
「外国人雇用の現場は予想だにせぬ出来事の連続である」
今日はそうした珍事をつまびらかにしながら、私たちの仕事を紹介していきたいと思う。

苗字で呼び合うのが礼儀なの？

「智（とも）さん、ちょっといいですか。この書類のここ、何を書いたらいいんですか？」

相談してくれたのは、弊社に今日付けで入社したばかりのベトナム人のマイさん。朝から自己紹介の時間があり、すぐに入社時に必要な書類、物品の受け渡しが始まったので、ちゃんとお話しするのはこれが初めてだ。



「ここは、これ以上に伝えておくべきことがあれば書いてほしいという意味だから、何もなければ空白で大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」


………立ち去るマイさんに視線が集まっている。いや、厳密にいえばさっきからみんながこちらの様子を伺っているのだ。

何かおかしいこと言ってたかな。
首をすくめる私と、注目を浴び、恥ずかしそうに去っていくマイさん。


━しばし思考を巡らせ、ハッとした。
しまった！久しぶりの海外メンバーの入社に、つい、いつもの調子で自己紹介してしまった私。衆目を集めてしまったのは「初対面で普通、名前呼びする？（私たちでさえ『青山さん』呼びなのに？！」という、みんなの心の声なのだ。

以前、弊社に3年在籍するベトナム人のドンさんが、入社当初『日本人はオフィシャルな場では、苗字で呼び合わねばならないのか？ベトナムは名前で呼び合う文化なので、違和感がある』とぼやいていたのを思い出した。



たぶん、朝の自己紹介が原因だ。初来日のマイさんには「みんなからは、智（とも）って呼ばれてるよ！（よろしくね）」という言葉は余計な一言だったのだ。

慌ててマイさんの元に駆け寄り、事情を話すと「『なんでも聞いて』と言われたから、智（とも）さんに話しました。OK、OK…。私の振る舞いにおかしいところがあったのかと思いました。皆さんの前では、青山さんと呼ぶことにします」と、顔を赤らめた。

よく考えれば、幼稚園や保育園の時代は名前で呼ばれていた私たちも、大人になるにつれ苗字で呼ぶことが当たり前になっていた。たしかに、海外は名前で呼び合う文化が多いのかもしれない。

なるほど。国が違えば文化が違う。いや、違って当然なのだ。それほどに、世界は広いのだ。

合理的にあり得ない　青山智香の旅立ち

席に戻ると、三石主任が待っていた。彼は、私の上司であり今月から海外事業部より籍を移し、株式会社キャムグローバルの社長として就任することになっている。

「青山さんに辞令だよ。次は、キャムグローバルのメンバーとして、海外支店の立ち上げを頑張ってもらいたいんだ」

「え、いいんですか？」
まさかの言葉に戸惑う私。どうにか絞り出した声はやや上擦っていたかもしれない。

「青山さんにはこの3年、海外事業部でキャリアアドバイザーとして全国を飛び回ってもらってきた。後進は育っているよ。青山さんの業務は彼、彼女らに託してあなたは海外で思い切りやりなさい」

「でも……」
でも…本当にいいのだろうか？目標としていた、海外勤務がこんなにも早く叶うなんて。

振り返れば、記事にはできないような数々の珍事に直面し、その度に同部署のメンバーの協力も得て、なんとか解決にこぎつけてきた。
3年間の思い出が、走馬灯のように蘇る。

「ありがとうございます、頑張ります…！」



あふれそうになる涙をグッとこらえ顔を上げると、三石主任がいつもの笑みを浮かべ、外を眺めていた。


あの遠くに見える海の向こうに、次なる私の仕事が待っているのだ。

わたくし、青山智香はこれを以て「合理的にあり得ない　青山智香の解明」を卒業させていただきます。

合理的にあり得ない
～キャリアアドバイザー青山智香の解明～　完

終