壁穴、開いています

ワタシ、青山智香は外国人材を雇用する企業や雇用される側の外国人が抱える課題を解決・サポートする業務に携わっている、いわゆるキャリアアドバイザー。

実はこれまでも珍事の解明に取り組んできたのだが、企画が変わってワタシ自身が密着取材を受けることになってしまった（これまでの珍事はこちらからどうぞ）。



ひとえに
「外国人雇用の現場は予想だにせぬ出来事の連続である」
今日はそうした珍事をつまびらかにしながら私たちの仕事をご紹介していきたいと思う。


2023年12月15日　15：30　●●市　株式会社〇〇
インドネシア人技能実習生4名の寮にて

その日、私はいつものように技能実習生の寮を巡回していた。
共有スペースは問題なく使われており、健康面、金銭面も良好。日本語の勉強も継続的に頑張っている様子ですっかり安心しきっていた私は、BIMAさんの部屋にて驚愕した。

ドアを開けた目線の先に、ちょうど握りこぶし一個分ほどの穴が開いていたのである。

━壁穴…。



いや、おかしな想像をしてしまうのは、時々X（旧Twitter）でその文言を目にしてしまうからだ。その壁穴は、隣の部屋まで貫通…とまではいかず、あちらからは灰色の壁が「こんにちは」していた。物の持ち運びや移動で運悪く何かをぶつけてしまったのか、まさかリアルお隣さん「こんにちは」を目論んでいたのか？

とにもかくにも事態の要因を尋ねると、彼は悪びれるでもなく「壁を殴ったら、穴が開きました」と言う。

いや、そんなまっすぐな目でみつめられても困るよ、BIMAさん…。
きっとそうせざるを得ない、相当な理由があったんだよね？と、心中をお察ししながら、なぜ壁を殴るような一大事になったのか、動機を探ってみる。

すると同室のYUDAさんと些細な事から口論になり、腹が立って衝動的に壁を殴ったと、これまたあっさり白状した。
ちなみに、その辺にあった私物諸共ぶん投げ、すごい音がしていたそうだ。

「こらー（怒）自分の物が壊れるだけならいざ知らず、そんなん、立派な器物損壊だからなー！！！！」



と、心の声が漏れそうになりながらも、大きく深呼吸する。
こんな時でも冷静に物事を整理し対処していくのが私の腕の見せ所。

なぜ壁穴が開いたのか、解明の時

まずは、別室の2人にも同席してもらい、BIMAさんとYUDAさんの日常の様子を聞き出す。
すると、YUDAさんはあまり片付けが得意ではなく細かいことが気にならない性格、よく喋るし生活リズムもまちまちなタイプ。
一方のBIMAさんは綺麗好きで几帳面な性格、かなり大人しく、朝夜の日課として日本語の勉強を欠かさないタイプとわかった。

要するに、2人は性格も生活リズムも、おおよそ日常生活の全てにおいて相性が悪いことが事の発端のようだった。

性格の不一致は離別の一因になるとは言うが、まさか一見物静かで温厚そうなBIMAさんが物に当たるとは…。性格的に相手に吐き出せない分、鬱憤が溜まりに溜まって、自室の壁を殴るという暴挙に出てしまったらしい。
聞けば「隠す気はなかった。インドネシアでは基本的に一軒家の生活で壁を壊そうが何をしようが誰も関知しない。故郷の自室は穴ぐらい普通に開いてる」とのこと。



そんなわけで大家さんには陳謝し弁償にて責任を取り、性格を見て部屋割りを改め、1週間、1か月と寮の巡回をおこなった。

こうして、インドネシア人技能実習生4名が住まう寮、フォレストグリーン大平は安寧を取り戻したのでした。

終