【新制度】育成就労制度とは?技能実習からの変更点を解説
2025.07.23
長年運用されてきた技能実習制度に代わり、新たな「育成就労制度」が創設され、外国人材の受け入れは大きな転換期を迎えています。この新制度は、単なる名称変更ではなく、「人材育成と確保」を明確な目的とし、転籍ルールの緩和や特定技能制度との連携強化など、多くの変更点を含みます。企業にとっては、外国人材の長期的なキャリア形成支援と安定的な労働力確保のチャンスとなる一方、新たなルールへの対応やコスト負担も求められます。
この記事では、「育成就労制度とは何か?」を基本から解説し、技能実習制度との違い、企業のメリット・デメリット、具体的な準備や注意点を網羅的にご紹介します。
CONTENTS
1. 「育成就労制度」とは?技能実習に代わる新制度の基本
まず「育成就労制度」について新制度の概要について解説します。
1. 育成就労制度の定義
育成就労制度は、「特定技能1号」水準の人材を育成し、安定的に確保することを目的とした新しい在留資格制度です。これまでの技能実習制度に代わる制度として位置づけられており、実践的な技能習得と労働力確保の両面を重視しています。
2. 創設の背景
日本国内では深刻な人手不足が進行しており、特に熟練労働者の確保が急務となっています。一方で、従来の技能実習制度には人権問題が指摘されるなどの課題があり、制度本来の「国際貢献」という目的と実際の運用が乖離している実態が明らかとなりました。また、グローバルな人材獲得競争が激化する中で、日本も魅力ある制度を整備する必要がありました。
3. 制度の目的転換
これまでの技能実習制度の中心的な目的は「国際貢献」でしたが、育成就労制度では「人材育成と確保」を明確な目的として掲げ、国内の労働市場のニーズに即し、より実態に即した制度設計を行うことで質の高い外国人労働者の受け入れを目指しています。
4. 施行スケジュール
育成就労制度は2024年6月21日に公布され、公布から3年以内の2027年6月までの間に施行される予定です。今後は詳細な運用ルールの策定や制度の周知、実務面での準備が進められる見込みです。

2. 【徹底比較】育成就労制度 vs 技能実習制度:主な変更点まとめ
次に、それぞれの制度の変更点を以下の表にてまとめます。
| 項目 | 育成就労制度 | 技能実習制度 | 変更点・ポイント |
|---|---|---|---|
| 目的 | 人材育成・確保を明確に設定 | 国際貢献を主目的 | 「人材育成・確保」へ目的の転換 |
| 対象分野 | 原則として「特定技能」16分野に統一 | 多様な職種・分野が対象 | 分野を特定技能16分野に統一(例外・調整可能性あり) |
| 在留期間 | 最長3年間(育成計画に基づく) | 最長5年間 | 育成計画に沿った3年の明確な期間設定 |
| 転籍(転職) | 一定条件下で本人の意思による転籍可能 | 原則禁止 | 転籍の自由度向上(本人の希望に配慮) |
| 日本語要件 | 入国時に日本語能力試験N5相当以上が必須 | ほぼ要件なし | 日本語能力の最低基準を導入 |
| 監理体制 | 「監理支援機関」へ名称変更・独立性強化 | 「監理団体」 | 監理支援機関の役割強化、外部監査導入予定 |
| 費用負担 | 本人負担軽減、企業負担増の可能性 | 本人負担が比較的多い | 送り出し機関手数料等の負担見直し |
| 育成計画 | 特定技能1号レベルを3年で目指す計画が必須 | 育成計画の義務はない | 育成計画の策定義務化で育成目標を明確化 |
主な変更点のポイント
- 1. 目的の明確化
育成就労制度では「人材育成・確保」を目的とし、実務能力の向上と労働力の安定確保を目指す。 - 2. 対象分野の統一
原則として「特定技能」の16分野に限定し、対象範囲を絞り込むことで専門性を高める。例外や調整も今後検討される。 - 3. 転籍(転職)自由度の向上
一定の要件を満たせば本人の希望による転籍が可能になり、労働者の権利保護が強化される。 - 4. 日本語能力要件の導入
入国時に日本語能力試験N5相当以上を求めることで、円滑なコミュニケーションや職場適応を促進。 - 5. 監理体制の強化
「監理団体」から「監理支援機関」へ名称変更し、役割の明確化と独立性向上を図る。外部監査の導入も予定。 - 6. 費用負担の見直し
外国人本人の負担軽減を目指し、送出し機関の手数料分担を見直す一方で、企業側の負担は増加する可能性がある。 - 7. 育成計画の必須化
3年間で「特定技能1号」レベルに到達することを目標とした育成計画の策定が義務化され、育成の質を確保。
3. 「特定技能」との連携:育成就労からのキャリアパス
育成就労制度の3年間は、「特定技能1号」への準備期間として位置づけられています。この期間中に実務経験や技能、日本語能力の向上を図り、次のステップである「特定技能1号」へのスムーズな移行を目指します。
育成就労から特定技能1号への移行プロセス
育成就労制度を適切に修了した場合、通常求められる特定技能1号の技能試験や日本語試験について、免除または代替措置が設けられる予定です。これにより、外国人材は試験負担を軽減し、円滑に特定技能1号へ移行可能となります(詳細は今後の制度運用で明確化される予定)。
特定技能1号から2号へのキャリアアップ
特定技能1号は最長5年間の在留が認められており、その後は条件を満たせば、家族帯同も可能な無期限の特定技能2号へステップアップできる道が開かれています。この流れにより、外国人材は日本での長期的なキャリア形成が期待されます。
技能実習制度との比較メリット
従来の技能実習制度と比べ、育成就労制度と特定技能制度の連携は、より明確でスムーズなキャリアパスを提供します。技能や日本語能力の習得が体系的に支援され、労働者のキャリア形成を促進することで、長期的な人材確保につながることが期待されます。

4. 受け入れ対象は?育成就労制度の対象分野(職種)
育成就労制度における受け入れ対象は、原則として「特定技能制度」の16分野が中心となる見込みです。これには介護、ビルクリーニング、工業製品製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業が含まれ、さらに新たに以下の4分野が追加される予定です。
- ● 自動車運送業
- ● 鉄道
- ● 林業
- ● 木材産業
これらの分野は、現行の技能実習職種の多くと対応付けられていますが、一部の技能実習職種は育成就労制度の対象外となる可能性があり、今後の受け入れができなくなるケースも考えられます。例えば、介護や建設、農業といった主要な分野は引き続き対象となる見込みですが、技能実習で認められているすべての職種が対象になるわけではありません。
分野ごとの詳細な要件や具体的な運用方針については、今後政府・関係機関からの正式発表があるため、最新情報を継続して確認することが重要です。
5. 新制度のメリット・デメリット:企業と外国人材への影響
続いて、育成就労制度導入による受け入れ企業側と外国人材側の双方にとっての利点と課題点を整理します。
企業側のメリット
- ● 長期的な人材確保・育成が可能に
育成就労制度により、特定技能への移行を見据えた計画的な人材育成と安定確保が期待できる。 - ● 日本語レベルの担保による円滑なコミュニケーション
入国時に一定の日本語能力(N5相当)が求められるため、職場でのコミュニケーションがスムーズになる。 - ● 育成目標の明確化
特定技能1号レベル到達を目指す育成計画が義務付けられ、育成内容と成果が見えやすくなる。
企業側のデメリット・リスク
- ● 受入コストの増加
監理支援機関への費用負担や教育体制の整備、手数料分担など、従来よりもコストが増える可能性がある。 - ● 転籍による人材流出リスク
一定条件下で転籍が可能となるため、育成した人材が他社へ流出するリスクがある。 - ● 教育・研修体制の充実が必要
育成責任の明確化に伴い、計画的かつ質の高い教育プログラムの整備が求められる。 - ● コンプライアンス強化の必要性
不法就労助長罪等の罰則強化により、法令遵守や適正な受け入れ体制の整備が不可欠となる。
外国人材側のメリット
- ● 明確なキャリアパスの確立
育成就労から特定技能への移行を通じて、段階的にスキルアップし長期的な就労が可能。 - ● 費用負担の軽減
送出し機関手数料などの負担軽減により、借金リスクの軽減が期待できる。 - ● 転籍の自由度向上
一定条件のもと転籍(転職)が可能となり、働きやすい環境を選択しやすくなる。 - ● 人権保護・支援体制の強化
制度全体で外国人材の権利保護やサポート体制の充実が図られている。
外国人材側のデメリット・注意点
- ● 転籍には制約がある
転籍は自由ではなく、一定の要件や手続きが必要で制約も存在する。 - ● 育成計画に基づく就労の義務
育成計画に従った技能習得や就労が求められ、計画から逸脱した働き方は認められにくい。

6. 転籍(転職)ルールの詳細:何がどう変わるのか?
ここで、新制度の大きな変更点である転籍について、具体的なルールと影響を解説します。
【技能実習制度との比較】
技能実習制度では、転籍は原則禁止されており、やむを得ない事情がある場合にのみ限定的に認められています。そのため、受け入れ企業が育成した技能実習生を他社に移すことは非常に制約が多い状態でした。
【育成就労制度での転籍ルール】
育成就労制度では、外国人材本人の意思に基づく転籍が可能となり、転職の自由度が大幅に拡大されます。ただし、転籍には以下の4つの具体的要件を満たす必要があります。
- 1. 同一業務区分内であること
転籍先の職務内容が、現在の就労先と同じ業務区分である必要がある。 - 2. 同一受入機関での就労期間が一定期間を超えていること
就労期間は1年以上2年以下の範囲内で、分野ごとに定められた期間を満たす必要がある。 - 3. 技能検定基礎級等および日本語能力試験に合格していること
日本語能力はN5・A1レベル以上が基本だが、将来的にN4・A2レベルも段階的に検討されている。 - 4. 転籍先の受入機関が一定の要件を満たしていること
転籍先企業が適切な管理体制や環境を備えていることが求められる。
【やむを得ない事情による転籍の拡大・明確化】
本人の意思による転籍に加え、やむを得ない事情がある場合の転籍も許容範囲が拡大され、その具体的範囲が明確化されます。これにより、外国人材の権利保護が強化される見込みです。
【転籍支援の仕組み】
ハローワークや監理支援機関が転籍希望者に対し、職業情報の提供や職業紹介を行う仕組みが整備され、転職活動の支援が強化されます。
【企業側の留意点】
- ● 転籍が可能になることで、育成にかかった初期投資や教育コストを回収できないリスクが高まる。
- ● このリスクに対応するため、国は企業の負担を軽減する補填措置などの検討を進めている。
このように新制度では、外国人材の転籍の自由度が拡大される一方で、一定のルールと支援体制により、転職が秩序ある形で進むことが期待されています。企業と外国人双方の利便性と権利保護のバランスが図られている点が特徴です。

7. 企業が取るべき準備と対応:育成就労制度への移行に向けて
最後に新制度施行に向けて、企業が具体的にどのような準備を進めるべきかを解説します。
1. 情報収集の徹底
新制度の省令や運用方針、分野別要件などの最新情報を常に確認し、制度の詳細を把握することが重要です。制度変更に伴う対応を迅速に進めるため、関連する法令やガイドラインの動向を注視しましょう。
2. 現行技能実習生への影響確認と対応準備
現在受け入れている技能実習生に対して、新制度への経過措置がどのように適用されるかを把握し、本人へ丁寧な説明を行う準備を進めます。スムーズな移行支援やフォロー体制を整えることが求められます。
3. 受入体制の見直し
- ● 監理支援機関の選定基準の検討
独立性や支援能力を重視し、信頼できる監理支援機関を選定・契約することが必要です。 - ● 社内の育成・指導体制の再構築
育成計画の作成や指導員の育成能力を強化し、計画的な技能習得を支援できる体制を整えます。 - ● 日本語教育・生活支援体制の強化
入国時に一定の日本語能力が求められるため、社内や外部の日本語教育環境の充実と生活支援の強化を図ります。
4. 育成計画の検討
特定技能1号レベルを3年間で達成するための具体的な育成カリキュラムを策定し、目標達成に向けた段階的な技能・日本語習得支援を計画します。
5. コストシミュレーション
監理支援機関費用や教育体制整備など、新制度下で増加する可能性のある費用を予測し、予算計画を立てます。経済的な負担増に備えた資金管理が重要です。
6. 魅力ある職場環境の整備
転籍リスクを考慮し、人材が長く定着・活躍できるよう、労働条件の改善やキャリア支援、コミュニケーションの活性化に取り組みます。
7. コンプライアンス体制の確認・強化
不法就労助長罪の罰則強化を踏まえ、新たな法令やルールに適合した受け入れ体制を整備し、内部監査や研修などでコンプライアンスの徹底を図ります。
必要に応じて専門家の助言や外部支援も活用すると良いでしょう。
8. 【まとめ】育成就労制度を正しく理解し、未来の人材戦略へ
育成就労制度は、技能実習制度に内在していた人権問題や制度の目的と実態の乖離などの課題を踏まえ、新たに設計された持続可能な外国人材受け入れの仕組みです。特定技能1号レベルの人材育成と確保を目指し、外国人材と企業の双方にとってメリットのある環境を提供することを目的としています。
企業においては、従来の技能実習制度との違いや新制度のメリット・デメリットを正確に理解したうえで、育成計画の策定や受け入れ体制の整備、コスト管理など計画的かつ総合的な準備が不可欠です。特に転籍ルールの変更や監理体制の強化など新たな対応が求められる点は重要なポイントとなります。
また、制度の施行に伴い関連する法令や運用方針は随時更新されるため、最新情報を継続的に収集し、必要に応じて専門家や行政機関への相談を積極的に行うことが、円滑な移行と安定的な外国人材受け入れの鍵となります。
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