30分弱で、到着します

ワタシ、青山智香は外国人材を雇用する企業や雇用される側の外国人が抱える課題を解決・サポートする業務に携わっている、いわゆるキャリアアドバイザー。

実はこれまでも珍事の解明に取り組んできたのだが、企画が変わってワタシ自身が密着取材を受けることになってしまった（これまでの珍事はこちらからどうぞ）。



ひとえに
「外国人雇用の現場は予想だにせぬ出来事の連続である」
今日はそうした珍事をつまびらかにしながら私たちの仕事をご紹介していきたいと思う。


2023年１月25日　13：00　新潟県　株式会社××
ベトナム人技能実習生の寮の前にて

今、私は極寒の新潟県に居る。今日は特に昨夜からの大寒波で吹雪の中、アパートの外で待ちぼうけをくらっている。
RISWANTOさんとの待ち合わせは13時。
先ほど連絡を取ったところ「30分弱でアパートに着く」と返事があり、12時半に駅でタクシーを拾い12時50分に到着してアパート前をうろついている。

それにしても、あまりの寒さと傘の中に吹き込んでくる雪の冷たさに震えが止まらない。不運にも、アパートの形状として屋根がなく、近くに屋根のある場所も見当たらず、こうして動くことで少しでも暖を取ろうとしている。そもそも私は和歌山という比較的暖かい地域で生まれ育ち、そんなに寒さに強くないのだ。



13時を回った。
LINEを確認する。
間違いなく「30分弱」という文字と熊のスタンプがGOODポーズをしているが、一向に本人は現れない。日本も長く、日本人的時間の感覚、細かさはわかっているはずだ。そして、性格的に決めた約束を破るタイプではない。

13時10分
もうかれこれ、20分は経っている。本人にLINEもしているが、こういう時にケータイをいじりながら歩いていると滑って怪我をする可能性があるため、これ以上の連絡ははばかられる。

13時13分
「青山さーん！ちょっと遅くなりました。ごめんなさーい！」
ついにRISWANTOさんの声がした。

「RISWANTOさん、随分、遅いじゃない。20分は待ったよ？途中何かあったの？」

「いえ、何もないですよ。昼休みに工場長に一声かけて、時間通りに会社を出てきました。あれ、だって30分弱って言いましたよね？」

なるほど、そうか、日本語にちょっと慣れ親しんだ結果、誤認してしまってるんだな。

日本語における「弱・強」の用法

「弱・強」とは「より少ない（小さい）・より多い（大きい）」といった意味。

例えば、大さじ1杯強といえば大さじ1杯よりちょい多めのニュアンス、1時間弱といえば1時間に満たないぐらい、50分～59分を意味するのだ。
昨今の調査結果では、若い世代を中心に約4人に1人は誤用しているという。
ちなみに国語辞典で調べてみると「数量を表すことばにつけて、それよりやや少ないこと、またはやや多いことを表す」とある。



きっとRISWANTOさんは若いし、そうしたコミュニティの中で耳にした言葉を使って今日も「30分と少し」の意味で「30分弱」を使い「40分後ぐらいに到着する」と伝えたつもりなのだろう。

しかしこの差、20分。状況によっては大問題になりかねない。今回は幸いこの後の予定もなく難は逃れた。
ただ……。

私の鼻から顔を出しかけた鼻水が、氷に変わろうとしていた。

終