技能実習生の給与相場と決め方を法律と注意点から徹底解説
2025.12.09
技能実習生の受け入れにおいて、給与設定は企業の経営課題であると同時に、実習生の生活とモチベーションに直結する重要な要素です。法律を守ることは当然ですが、相場や他社の状況を知らずに最低ラインで設定すると、失踪や特定技能移行時の転職といった深刻なリスクを招きかねません。
本記事では、最新の公的統計データにもとづく技能実習生の給与相場と、法律遵守のための3つのルール、そして手取り計算の注意点までを具体的に解説します。
CONTENTS
- 1. 技能実習生の給与相場はいくら?
- 2. 技能実習生の給与設定で遵守すべき法律ルール
- 3. 給与を「最低賃金」で設定する実務上のリスク
- 4. 技能実習生の「手取り額」と控除の注意点
- 5. 人材に選ばれるための適切な給与運用
- 6. 技能実習生の給与に関するQ&A
- 7. 技能実習生の給与設定は専門家への相談が大切
1. 技能実習生の給与相場はいくら?
厚生労働省が公表する「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、技能実習生の平均月収は 約18万2,700円(所定内給与額) となっています。これはあくまで所定内給与であり、社会保険料や所得税などが控除される前の額ですので、実際の手取り額はこれより少なくなる点に注意が必要です。
給与水準を他の在留資格や日本人労働者と比較すると、以下の傾向が見られます。
- ● 特定技能:技能実習生よりも高い給与水準(平均20万円前後)
- ● 専門的・技術的分野(高度人材):更に高額で、30万円前後が一般的
- ● 同年代の日本人労働者(20代):平均約21万円前後
この比較から、技能実習生の給与は日本人の平均よりやや低めであり、特定技能や高度人材と比べるとさらに差があることが分かります。これは、技能実習制度の趣旨が「技能移転」にあることや、実務経験の少ない外国人材を対象としていることに起因します。
2. 技能実習生の給与設定で遵守すべき法律ルール
給与は企業の裁量で決めるものではなく、日本の労働法規に厳密に従う必要があります。主に注意すべき法律上のルールは以下の3つです。
2.1 ルール1:最低賃金を遵守する
日本では、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の2種類があります。給与は この二つのうち高い方を上回らなければなりません。たとえば、東京都の地域別最低賃金が1,200円、特定産業別最低賃金が1,250円の場合、給与は1,250円以上で設定する必要があります。
最低賃金は毎年10月頃に改定されるため、企業側が気付かないうちに法令違反となるリスクがあります。技能実習生の給与設定を行う際は、必ず最新の最低賃金を確認することが重要です。
参考:令和7年度 地域別最低賃金 全国一覧|厚生労働省
2.2 ルール2:同一労働同一賃金を遵守する
技能実習生であっても、日本人従業員と同等の業務に従事する場合は 不合理な待遇差を設けてはいけません。具体的には、通勤手当や住宅手当を日本人には支給するのに、技能実習生には支給しないといったケースは違反とみなされます。このルールは、労働契約法やパートタイム・有期雇用労働法で明確に定められており、違反した場合は行政指導や罰則の対象となる可能性があります。公平で透明性のある給与体系を設定することが、企業側のリスク回避にもつながります。
参考:同一労働同一賃金特集ページ|厚生労働省
2.3 ルール3:割増賃金(残業代)を支払う
時間外労働、休日労働、深夜労働には、それぞれ 法定の割増賃金率 が適用されます。
- ● 時間外労働(法定労働時間を超える):25%以上
- ● 休日労働:35%以上
- ● 深夜労働(22時~5時):25%以上
また、月60時間を超える残業には特別割増率(50%以上)が適用される場合があります。給与計算は正確に行い、実習生が残業した場合には必ず割増賃金を支払うことが義務です。
正確な計算方法や支払い漏れは、後々のトラブルや行政指導の原因となるため注意してください。
参考:割増賃金の詳細解説

3. 給与を「最低賃金」で設定する実務上のリスク
法律上は最低賃金での給与設定も問題ありませんが、実務上は深刻なデメリットが存在します。主に「技能実習生の失踪」「転職」「法律違反」という3つのリスクが挙げられます。これらを理解せずに給与設定を行うと、人材確保や事業運営に支障をきたす可能性があります。
3.1 リスク1:技能実習生の失踪を誘発する
給与水準への不満は、技能実習生が失踪する主要な動機のひとつです。実習生はSNSや口コミなどで他社の給与情報を容易に確認でき、自社の給与が低い場合、労働意欲が低下し、失踪に直結するケースがあります。
失踪のプロセスは以下のように進むことが多いようです。
- 1. 他社給与情報の入手
- 2. 自社待遇との比較
- 3. 不満の蓄積
- 4. 労働意欲の低下と逃避行動(失踪)
企業にとって、失踪は業務の停滞だけでなく、採用や指導にかけた時間とコストの損失にもつながります。最低賃金ぎりぎりでの給与設定は、このリスクを高めるため注意が必要です。
参考:外国人実習生の失踪問題と起こった後の対処法を解説
3.2 リスク2:特定技能移行時に他社へ転職される
技能実習生は、実習期間修了後に「特定技能」へ移行すると、転職が自由になります。最低賃金で雇用を続けた場合、自社で育成した優秀な人材が、より高待遇の企業に流出する可能性があります。
この場合、企業が被る影響は以下の通りです。
- ● 教育・研修にかけたコストの損失
- ● 業務の安定性低下
- ● 人材確保のための追加採用コストの発生
技能実習生の給与は単なる法的遵守の問題ではなく、育成した人材を定着させる戦略的要素であることを理解する必要があります。
詳細は在留資格「特定技能」 – 海外人材タイムスをご確認ください。
3.3 リスク3:最低賃金改定にともなう法律違反
最低賃金は毎年10月頃に改定されます。給与を最低賃金ぴったりで設定している場合、改定に気付かず支払い続けると、最低賃金法違反となるリスクがあります。違反すると、行政指導や30万円以下の罰金が科される可能性があります。
企業は以下の対応を行うことが重要です。
- ● 毎年の最低賃金改定を確認
- ● 給与計算システムのアップデート
- ● 社内での改定情報の周知
これにより、法令違反のリスクを未然に防ぐことができます。
参考:最低賃金法の違反の罰則について|大阪労働局

4. 技能実習生の「手取り額」と控除の注意点
給与は総支給額と手取り額が異なるため、控除項目の透明化がトラブル防止に直結します。実習生に対して、給与明細でどの控除がどの理由で行われているかを明確に示すことが不可欠です。
4.1 給与明細で透明化すべき控除項目
控除項目は大きく分けて2種類あります。
- 1. 法律で控除が認められている項目
- ○ 健康保険料
- ○ 厚生年金保険料
- ○ 雇用保険料
- ○ 所得税
- ○ 健康保険料
- 2. 労使協定に基づき控除が可能な項目
- ○ 寮費・家賃
- ○ 食費
- ○ 水道光熱費
- ○ 寮費・家賃
特に寮費や食費は、実費を超えた不当な天引きにならないように設定する必要があります。控除が不透明だと、信頼関係の悪化やトラブルの原因になるため、給与明細での明確な表示が重要です。
参考:賃金控除に関する労使協定
4.2 所得税・住民税の仕組みと注意点
税金の仕組みも給与設定で重要なポイントです。
- ● 所得税
- ○ 来日1年目(非居住者):一律20.42%源泉徴収
- ○ 2年目以降(居住者):日本人と同様の課税方式
- ○ 来日1年目(非居住者):一律20.42%源泉徴収
- ● 住民税
- ○ 来日1年目は課税されない
- ○ 2年目6月頃から前年所得に基づき課税・控除が開始
- ○ 来日1年目は課税されない
さらに、母国との租税条約により、所得税や住民税が免除される場合があります。企業はこれを把握し、誤った徴収を行わないことが重要です。
参考:我が国の租税条約等の一覧|財務省

5. 人材に選ばれるための適切な給与運用
技能実習生の給与を最低賃金ぎりぎりで設定すると、失踪や転職のリスクが高まり、育成した人材を定着させることが困難になります。そのため、給与設定は単なる法令遵守ではなく、人材に選ばれる企業であるための戦略として捉えることが重要です。また、近年の制度改正により、月給制での支払いが原則化されつつある点も押さえておく必要があります。
5.1 昇給と賞与の活用
昇給や賞与の支給は法律上の義務ではありませんが、実習生のモチベーション維持や定着率向上に大きく寄与します。特に、実習生は初来日後すぐに給与の水準を実感するため、自分の努力や習熟度が正当に評価されると感じられる仕組みが重要です。
具体的には以下の施策が有効です。
- ● 定期昇給の設定:半年や1年ごとに技能の習熟度に応じた昇給機会を設ける
- ● 賞与の支給:年度末や業績に応じた一時金を支給し、努力への報酬を明確化する
- ● 成果評価のフィードバック:給与改定や賞与の根拠を説明することで、評価制度への納得感を高める
これにより、技能実習生は「頑張りが評価されている」と実感し、失踪や転職の抑止効果が期待できます。また、企業側にとっても、育成コストに見合った定着率向上というメリットがあります。
5.2 月給制義務化の動向
従来、技能実習生の給与は時給制や日給制で支払われることが多く見られましたが、安定した生活基盤を提供する観点から、月給制での支払いが原則化されています(特定の職種及び作業に係る技能実習制度運用要領)。
月給制導入における注意点は以下の通りです。
- ● 月給額を時給換算した際、最低賃金を下回らないよう調整する
- ● 欠勤控除や遅刻・早退に伴う減額のルールを明確に設定する
- ● 月給制で安定収入を確保することで、実習生の生活不安や離職リスクを低減
月給制の義務化により、企業は給与管理をより正確かつ透明に行う必要があります。
6. 技能実習生の給与に関するQ&A
技能実習生の給与に関しては、現場で具体的な疑問が生じやすいです。ここでは代表的な質問を5つ取り上げ、明確に回答します。
6.1 Q1. 技能実習生の給与を日給や時給で支払えますか?
原則として月給制での支払いが求められます。ただし、月給額が最低賃金を下回らないか、欠勤控除が適切に行われているかを管理する必要があります。時給や日給を基に月給を算出する場合は、勤務時間の変動や休暇控除を反映させる仕組みが不可欠です。
6.2 Q2. 家賃や食費はいくらまで控除してよいですか?
家賃や食費などの実費控除は、労使協定に基づき適正額を設定する必要があります。実費を超えた控除は不当天引きとみなされ、行政指導の対象となる可能性があります。例えば、1人あたりの寮費が月2万円前後である場合、これを大幅に超える控除は避けるべきです。
企業は控除項目を給与明細で明確に表示し、実習生が理解できる形にすることが重要です。
6.3 Q3. 日本人とまったく同じ給与額にする必要がありますか?
「同一労働同一賃金」の原則に従えば、業務内容・責任範囲・経験が同等であれば、給与も同等に設定する必要があります。実習生であることを理由に一律で給与を下げることは不合理な待遇差とみなされます。通勤手当や住宅手当なども同様に、差別的取り扱いがないよう注意する必要があります。
6.4 Q4. 昇給や賞与は法律上の義務ですか?
昇給や賞与は法律上の義務ではありません。しかし、日本人従業員に対して支給している場合、実習生にだけ支給しないと不合理な待遇差として指摘される可能性があります。給与制度は、全従業員に対して公平で透明性のある運用が求められます。
6.5 Q5. 2027年からの「育成就労制度」で給与はどうなりますか?
新制度「育成就労」では、特定技能1号への円滑な移行が前提となります。転籍(転職)が一定条件で可能となるため、給与水準が低いと優秀な人材が流出するリスクがあります。これに備え、現行の技能実習制度以上に適切な給与設定や昇給・賞与制度が重要となります。
参考:育成就労制度 | 出入国在留管理庁

7. 技能実習生の給与設定は専門家への相談が大切
ここまで解説した通り、技能実習生の給与設定は労働法規・税制・在留資格制度が複雑に絡み合う専門的な領域です。不適切な給与設定や割増賃金の計算ミス、控除の不透明さは、以下の重大なリスクにつながります。
- ● 行政指導や改善命令
- ● 技能実習生の失踪や転職による人材流出
- ● 実習生受け入れ停止など事業運営への影響
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