技能実習生の問題・トラブル事例と原因|企業ができる対策を解説
2025.09.25
本来、国際貢献を目的とする技能実習制度ですが、低賃金や長時間労働、人権侵害、失踪といった「技能実習生の問題」が後を絶たず、社会的な課題となっています。なぜこのような問題が起こるのか、その原因は何なのか、そして受け入れ企業として何ができるのでしょうか。
この記事では、技能実習制度が抱える問題点を具体的に挙げ、その背景にある構造的な原因を分析します。企業が取るべき対策や、今後の「育成就労制度」への移行についても詳しく解説し、問題解決への道筋を探ります。
CONTENTS
- 技能実習制度の現状:本来の目的と顕在化する課題
- 技能実習制度で指摘される主な問題点
- なぜ技能実習で問題が発生するのか?その原因と背景
- 技能実習生の問題を防ぐために企業が取り組むべき対策
- 技能実習制度の見直しと「育成就労制度」への移行
- 問題解決の選択肢としての「特定技能」への移行
- まとめ:技能実習生問題に向き合い、共生できる社会へ
- 技能実習生の問題に関するFAQ
技能実習制度の現状:本来の目的と顕在化する課題
技能実習制度の概要と国際貢献という建前
制度の公式目的は、日本の技術・知識を開発途上国へ移転し人材育成に貢献することです。しかし、実態は人手不足解消の手段としての使用が散見されており、建前と現状のギャップが問題視されています。
なぜ今「技能実習生 問題」が注目されるのか?
メディア報道の増加、人権侵害や労働問題の社会問題化、国内外からの批判や制度見直しに対する議論の高まりなどが重なり、昨今の注目に至ったと考えられます。
データで見る技能実習生の現状(失踪者数、法令違反件数など)
法務省データによる令和5年の技能実習生の失踪者数は9,753人で、これまでで最も多い結果になっています。

また、労働基準監督署による受け入れ企業への監督指導結果は令和3年で9,036件あり、そのうち72.6%に該当する6,556件に法令違反が認められています。

労災発生状況についても見てみましょう。
厚生労働省が公表した令和5年のデータによると、全労働者の労災発生率(千人率)が2.36%であるのに対し、技能実習生は4.1%と非常に高い割合を示しています。

これら複数の客観的データからも、技能実習制度が抱える問題の深刻さがうかがえます。
技能実習制度で指摘される主な問題点
技能実習制度で指摘される主な問題点について、実習生、受け入れ企業、制度自体の3つの観点から整理します。
【労働条件】低賃金、残業代未払い、不当な長時間労働
最低賃金割れや不適切な控除による低賃金、サービス残業、割増賃金の未払い・計算誤り、過労死ラインを超えるような長時間労働の強制が指摘されています。
【安全・健康】労働災害の発生と労災隠し、安全配慮義務違反
危険作業時の安全対策不備、不十分な安全教育による労災発生の実態に加え、労災発生時の企業による隠蔽や適切な治療を受けさせないなどの対応が問題視されています。健康診断の未実施や健康状態への配慮不足も懸念されている点です。
【人権侵害】パスポート取上げ、違約金、ハラスメント(パワハラ・セクハラ)
パスポートや在留カードの不当な取り上げ、来日前の借金に関連した高額な違約金設定や強制貯金の問題があります。また暴言・暴力などのパワハラ、性的な嫌がらせなどのセクハラ事例も発生しています。
【生活環境】劣悪な住環境、行動の自由制限
不衛生・狭小な宿舎を高額な家賃で提供するケースや、外出や携帯電話使用の不当な制限などプライバシー侵害が報告されています。
【実習生側】失踪の増加とその背景(借金、待遇不満など)
前述の通り、令和5年の失踪者数は9,753人とこれまでで最も多くなっています。失踪理由はさまざまですが、入国前の高額な借金や低賃金、劣悪な労働・生活環境、職場での人間関係などが起因していると考えられます。
【企業側】法令違反の蔓延とコンプライアンス意識の欠如
多数の受け入れ企業において労働基準法などの法令違反が蔓延している実態があります。その根底にあるのは、技能実習法や入管法に対する理解不足、法令遵守意識の低さです。監理団体の指導・監督機能不全の問題も起因しています。
なぜ技能実習で問題が発生するのか?その原因と背景
原因1:制度の建前(技能移転)と実態(安価な労働力確保)の乖離
技能実習制度の目的は国際貢献ですが、実際の現場では労働力不足の解消手段として運用されている実態があります。この目的のズレに加え、「実習生」という名目から労働者としての権利意識が希薄化することも関係しているでしょう。
原因2:実習生と企業間のコミュニケーション不足・言語の壁
日本語能力や異文化理解に対する企業側の歩み寄り不足から、言語の壁を超えられず職場での意思疎通が困難なまま、誤解が発生しているケースがあります。
原因3:実習生が背負う高額な送り出し費用と借金問題
実習生は来日前に母国の送出機関などに多額の手数料・保証金を支払っています。高額な送り出し費用に充てた借金返済に対するプレッシャーが、低賃金受容や失踪の一因となる構造上の問題が存在します。
原因4:一部の悪質な監理団体・送出機関の介在
利益優先で不正な手数料徴収やずさんな管理を行うブローカー的存在が介在することから、企業への適切な指導が行われず、問題が放置されるケースが散見されます。
原因5:受け入れ企業側の制度理解不足と人権意識の低さ
技能実習生を単なる労働力とみなして権利を軽視する姿勢や、関連法規・企業の義務に対する知識不足も一因です。
原因6:文化・習慣の違いに対する配慮不足
宗教上の習慣(食事・礼拝など)への無理解・不配慮、日本独自の慣習の押し付けがあるケースも報告されています。
技能実習生の問題を防ぐために企業が取り組むべき対策
対策1:コンプライアンス体制の強化と法令遵守の徹底
- ● 労働基準法、最低賃金法、技能実習法などの理解と遵守
○ 社内研修などの実施により関連法規の知識習得を行い、就業規則整備と従業員への周知を行います。
- ● 36協定の適切な締結・運用、残業代の適正な支払い
○ 時間外労働ルールを遵守し、正確な勤怠管理と残業代計算・支払いを徹底します。
対策2:適正な労働環境・生活環境の整備
- ● 安全衛生管理体制の構築、労災防止策
○ 母国語で安全教育を実施するほか、保護具の支給、危険箇所の改善、また労災発生時の対応フローを整備します。
- ● 適切な賃金設定と評価、日本人との均等待遇
○ 最低賃金の遵守、不当控除の禁止、技能向上に応じた処遇改善を検討し、日本人との不合理な格差を解消します。
- ● 人間らしい住環境の提供
○ 衛生、広さ、プライバシーに配慮した住居を確保し、適正な家賃を設定します。
対策3:コミュニケーション促進と相互理解
- ● 日本語教育支援の継続、やさしい日本語の活用
○ 日本語学習の機会を提供し、わかりやすいコミュニケーションに努めます。
- ● 定期的な面談、母国語で相談できる体制づくり
○ 定期的な面談で実習生の状況把握と悩みを傾聴するほか、母国語対応が可能な相談窓口を設置し、実習生の不安に寄り添える体制を構築します。
- ● 社内交流イベント等による関係構築
○ 懇親会、レクリエーションなどを通じて日本人従業員との相互理解を促進します。
対策4:既存従業員への教育と意識改革
- ● 技能実習制度の正しい理解促進
○ 制度目的や実習生の立場、企業の責務などについて社内周知を徹底します。
- ● 異文化理解研修、ハラスメント防止研修の実施
○ 多様性尊重の意識を醸成し、あらゆるハラスメントを許さない職場風土を形成します。
対策5:信頼できる監理団体・送出機関の選定
- ● 費用の透明性、サポート体制、実績などを比較検討し、優良機関を選択することで悪質業者を排除します。

技能実習制度の見直しと「育成就労制度」への移行
現行制度の課題を踏まえた抜本的な見直しの動き
これら技能実習制度が抱える多くの問題が浮き彫りになり、政府有識者会議などにおいて、制度上の構造的問題点が指摘、議論されるようになりました。そこで創設されたのが新制度「育成就労」です。
新制度「育成就労」の創設目的(人材育成+人材確保、人権保護強化)
育成就労制度は技能実習の課題克服を目指し、「育成」「確保」「人権保護」を重視した新制度として、2024年6月に国会で法案が可決・成立しました。
育成就労制度で何が変わるのか?主な変更点の概要(転籍緩和など)
育成就労制度は2027年までに予定されている施行に向けて、現在も調整が進められています。制度内容は今後も変更する可能性はありますが、2025年8月時点で予定されている主な変更点は以下の通りです。
- ● 名称変更、目的の明確化(育成と確保)
○ 技能実習本来の目的と運用実態の乖離批判を受け、外国人材の育成と労働力確保の両立を目指す「育成就労」に名称変更し、目的を明確化します。
- ● 転籍(転職)制限の大幅緩和(一定条件下で本人の意向尊重)
○ 技能実習では転籍が禁止されていたことから、過酷な労働環境下における失踪が問題化していました。育成就労ではこの転籍制限を大幅に緩和し、本人意思による一定条件下での転籍も認められるようになります。
- ● 受け入れ分野と特定技能分野の原則一致
○ 受け入れ分野を特定技能の対象分野と一致させることで、就労を通じて技能を習得した後に、特定技能1号へ移行できるよう設計されています。
- ● 監理・支援体制の強化(監理団体→監理支援機関へ)
○ 監理団体から監理支援機関へと名称変更し、より専門的で広範囲な支援を行う機関に進化します。また育成就労機構(旧外国人技能実習機構)など関係機関との連携を強化し、悪質ブローカー対策を推進します。
制度移行が「技能実習生 問題」の解決にどう繋がるか?期待と課題
転籍自由化による実習生の人権侵害抑止と労働環境改善が期待されます。一方、人材の流動化に伴って企業側に定着努力が必要になるなどの新たな課題も出てくることが予想されます。
問題解決の選択肢としての「特定技能」への移行
技能実習2号修了者の特定技能1号への移行ルート
技能実習で得たスキルを活かし、より長く日本で働くための選択肢として、特定技能への移行ルートも用意されています。技能実習2号修了者は試験免除で特定技能1号への移行が可能です。
特定技能のメリット(転職可、支援体制など)と技能実習との違い
特定技能の方が転職の自由度が高く、キャリア形成しやすい側面があります。ただし、特定技能1号でも受け入れ企業などによる支援が義務付けられている点には注意が必要です。
実習生・企業双方にとってのキャリアパスとしての可能性
優秀な人材を技能実習から特定技能へ移行させ、継続雇用できるのは実習生・企業双方にとってメリットになります。
まとめ:技能実習生問題に向き合い、共生できる社会へ
技能実習制度の問題は、制度構造や社会全体の意識に関わる根深い課題です。受け入れる企業には法令遵守と人権尊重を徹底し、適正な受け入れ・育成を行う責任があります。今後の育成就労への制度改正を見据え、外国人材と真に共生するための準備を今のうちから進めておきましょう。
技能実習生の問題に関するFAQ
Q. 技能実習制度の最大の問題点は何ですか?
- ● 回答:国際貢献という建前と労働力確保の実態の乖離、そしてそれに伴う人権侵害や労働問題の発生構造などです。
Q. 企業が法令違反をするとどうなりますか?
- ● 回答:行政指導、改善命令、技能実習計画認定取消、受入れ停止、罰金、企業名公表などの処分が課されます。
Q. 失踪を防ぐために企業ができることは?
- ● 回答:適正な労働と生活環境の提供、実習生との密なコミュニケーションと相談体制の構築、不当な借金を負わせないための関係機関選定などがあります。
Q. 育成就労制度はいつから始まりますか?
- ● 回答:2024年6月に国会で関連法案が可決・成立し、2027年までの施行が予定されています。具体的な施行時期は未定のため、随時最新情報を確認してください。
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