インドネシアの宗教|イスラム教徒の雇用で配慮すべき7つのこと
2025.08.12
インドネシアからの人材受け入れが加速する中、インドネシア国民の約87%を占めるイスラム教徒への理解は不可欠です。文化や価値観の根幹にある宗教、特に「礼拝」「食事」「断食」への配慮を怠ると、思わぬ労務トラブルに発展しかねません。
本記事では、人事・労務担当者が知っておくべきインドネシアの宗教知識と、企業が実践すべき7つの配慮事項を解説します。円滑な受け入れと人材定着を実現するために、一つひとつ確認していきましょう。
CONTENTS
1. インドネシアの宗教に関する基礎知識
2. インドネシア人材の雇用に宗教理解が不可欠な理由
3. 宗教への理解がもたらす3つの経営的メリット
4. イスラム教徒の5つの義務|信仰の柱となる基本の行い
5. 企業が押さえるインドネシア人材への7つの実践的配慮
6. 知らないと危険!イスラム教の文化的タブーと禁止行為
7. インドネシアの宗教に関するよくある質問(Q&A)5選
8. まとめ:インドネシア人材の受け入れ成功は、専門家への相談が近道です
1. インドネシアの宗教に関する基礎知識
インドネシア人材を雇用するにあたって、宗教に対する理解は欠かせません。特にイスラム教を中心とした信仰が人々の生活に深く根付いているため、宗教を無視した対応は、コミュニケーションや労務管理のトラブルを引き起こす原因にもなりかねません。ここでは、雇用担当者として最低限知っておくべき宗教事情について解説します。
1.1 インドネシアの宗教構成:87%がイスラム教徒
インドネシアは、人口約2.79億人(2023年時点)を抱える世界第4位の人口大国であり、その約87%がイスラム教徒という、世界最大のイスラム教国でもあります。
ただし、インドネシアの憲法では宗教の自由が保障されており、イスラム教は「国教」ではありません。宗教の強制はなく、他宗教との共存が前提となっているのが特徴です。
また、中東諸国と比べて戒律の運用はやや柔軟な傾向にあり、信仰の度合いや実践方法には個人差も見られます。
1.2 インドネシアにおける「宗教」と「社会」の一体性
インドネシア政府が法的に認めている宗教は以下の6つです。
- ● イスラム教
- ● プロテスタント
- ● カトリック
- ● ヒンドゥー教
- ● 仏教
- ● 儒教
法律上、国民はいずれかの宗教を信仰する義務があり、「無宗教」は認められていません。そのため、宗教は単なる個人の信仰ではなく、社会制度そのものに組み込まれている存在です。たとえば
- ● 学校では宗教の授業が必修
- ● 宗教ごとの祝日が国民の休日
- ● 身分証明書には宗教欄がある
このように、宗教はインドネシア人の生活リズム・行動基準・人間関係すべてに関わっており、日常生活の“土台”そのものになっています。

2. インドネシア人材の雇用に宗教理解が不可欠な理由
イスラム教を中心とする宗教的な価値観は、インドネシア人の日々の行動に大きな影響を与えています。したがって、宗教への理解を欠いた職場環境は、彼らにとって非常に大きなストレス要因になります。以下のような日常的な行為でも、誤解やトラブルに発展するリスクがあります。
- ● お祈りの時間に声をかける
- ● ラマダン中に水や食事をすすめる
- ● ヒジャブの着用に口出しする
- ● 豚肉料理を知らずに提供する
- ● 飲み会への参加を強要する
こうした無理解が続くと、本人が「自分の信仰を否定されている」と感じ、早期退職や職場不信につながる可能性があります。
2.1特に注意が必要な3つのポイント
- 1. 礼拝(1日5回)への配慮
就業時間中に重なることがあるため、短時間の中断を許容するルール整備が有効。 - 2. 断食(ラマダン)への理解
体力や集中力に影響が出やすい午後の時間帯は、無理のない業務配分を心がける。 - 3. 食事(ハラル)に対する配慮
豚肉・アルコールの回避や、調理器具の使い分けなどが重要。社員食堂や懇親会でも注意が必要。
インドネシア人材の受け入れにおいては、スキルや語学力と同じくらい、宗教文化への理解と配慮が重要です。それが「安心して働ける職場」をつくり、長期的な雇用と信頼関係の土台になります。
特にイスラム教徒にとっては、礼拝や食事、服装といった日常的な習慣が“仕事と切り離せない一部”であるという点を忘れてはいけません。

3. 宗教への理解がもたらす3つの経営的メリット
宗教や文化への配慮は、単なる福利厚生の一部ではありません。これはすべての従業員が安心して働ける環境を整える、ダイバーシティ経営の根幹であり、企業の持続的な成長を支える重要な経営戦略です。宗教的・文化的な背景を尊重する取り組みは、以下のような経営的メリットをもたらします。
3.1 メリット1:従業員エンゲージメントの向上と信頼関係の構築
従業員が自身の信仰や文化が尊重されていると感じることで、企業に対する信頼と帰属意識が高まります。これにより、日々の業務への意欲が向上し、自発的な業務改善が促され、結果として生産性の向上にもつながります。
これらは、単なるモチベーション向上ではなく、企業文化の深化にもつながる重要な要素です。
3.2 メリット2:離職率の低下と採用ブランディングの強化
文化的・宗教的背景を尊重した職場は、「働きやすい職場」としての認知度・評判を高めます。特に、イスラム教徒をはじめとする外国人材の間で、SNSや口コミを通じてポジティブな情報が共有されると、離職率の低下だけでなく採用ブランディングにも大きく貢献するでしょう。これにより、グローバル人材を含む優秀な人材の確保がしやすくなります。
3.3 メリット3:D&I推進による企業価値向上
単に多様な人材を受け入れる(ダイバーシティ)だけでなく、宗教的配慮を通じて、彼らが尊重され、能力を最大限に発揮できる環境(インクルージョン)を整えることが、D&I推進の具体的な証となります。この実践は、企業のイノベーション創出や国際市場での競争力強化など、企業価値の向上にも直結します。

4. イスラム教徒の5つの義務|信仰の柱となる基本の行い
イスラム教徒にとって、以下の5つの義務(いわゆる「五行」)は、信仰と生活を支える根幹です。企業としては、これらが従業員の価値観や行動に与える影響を理解し、業務運営において適切に配慮することが求められます。
4.1 信仰告白(シャハーダ)
- ● 意味:「アッラーの他に神はなく、ムハンマドは神の使徒である」との信仰告白。
- ● 特徴:イスラム教徒としての基本的信条。入信時にも用いられる。
4.2 礼拝(サラー)
- ● 意味:メッカの方向に向かい、1日5回の定時礼拝を行う義務。
- ● 配慮点:正午過ぎと午後の礼拝は、通常の勤務時間と重なることが多いため、礼拝スペースや時間の確保が必要。
4.3 喜捨(ザカート)
- ● 意味:収入の一部を困窮者や社会のために施す「喜捨」の義務。
- ● 社会的意義:富の再分配という社会貢献の側面も強い。
4.4 断食(サウム)
- ● 意味:ラマダン月における、日の出から日没までの飲食の断ち。
- ● 配慮点:体力的な負荷が高く、昼食時の活動配慮や業務負担の調整が望ましい。
4.5 巡礼(ハッジ)
- ● 意味:可能な限り、一生に一度はメッカへの巡礼を行う義務。
- ● 配慮点:長期休暇の取得や渡航支援の可能性も想定しておくとよい。
宗教的・文化的な配慮は「特定の人への特別扱い」ではなく、誰もが自分らしく働ける職場をつくるための基盤となります。特にイスラム教徒の基本的な信仰や義務を理解することは、多様な人材が集う現代企業において、持続的成長・競争力強化・人材定着に直結する施策となるでしょう。

5. 企業が押さえるインドネシア人材への7つの実践的配慮
イスラム教徒の多いインドネシア人材が信仰と仕事を両立できるよう、企業は職場環境と食文化の2つの側面から配慮を行うことが重要です。ここでは、具体的な7つの配慮事項を解説します。
5.1 職場環境における4つの配慮
イスラム教徒の従業員が日常的に義務とする礼拝を支障なく行えるよう、時間と場所の配慮が求められます。また、ラマダン(断食月)やレバラン(断食明け大祭)が業務に与える影響も踏まえた柔軟な勤務体系が必要となるでしょう。
5.1.1 配慮①:1日5回の礼拝(サラー)への時間的配慮
- ● 1回あたり5〜10分程度の礼拝時間を確保する。
- ● 昼休みや休憩時間を活用できるよう柔軟な時間管理を認める。
- ● 金曜日の集団礼拝は通常より時間が長くなるため、上司や同僚が理解することが望ましい。
5.1.2 配慮②:礼拝スペースの確保と代替案
- ● 理想は専用の礼拝室(ムショラ)設置だが必須ではない。
- ● 静かで清潔な場所の提供を心がけることが重要。
- ● 会議室や空きスペースを時間帯限定で貸し出す、パーテーションで仕切るなどの工夫も有効。
- ● 従業員本人が持参する礼拝マットの使用を許可し、自席や自室での礼拝も尊重する。
5.1.3 配慮③:断食月(ラマダン)の業務調整
- ● 空腹や脱水による集中力・体力の低下に配慮。
- ● 休憩時間の延長、体力負担の大きい業務回避、残業制限などを行う。
- ● 断食中の従業員の前での飲食は控えるのがマナー。
5.1.4 配慮④:断食明け大祭(レバラン)の長期休暇
- ● レバランは日本の正月やお盆に相当し、1週間〜10日程度の大型連休となる。
- ● 事前に休暇予定を確認し、業務スケジュールに反映させる。
5.2 食事における3つの配慮
イスラム教の食事規定(ハラル・ハラム)を理解し、社内の食事提供や懇親会での対応を整える必要があります。
5.2.1 配慮⑤:食べてはいけないもの(豚肉やアルコール)の理解
- ● 豚肉および豚由来成分(ラード、ポークエキス、ゼラチン等)は厳格に禁止。
- ● ハム、ソーセージ、ベーコン、コンソメ、カレールー、菓子類にも注意が必要。
- ● アルコール飲料も原則禁止である。
5.2.2 配慮⑥:ハラル(許された食事)の提供方法
- ● ハラル認証マークのある食材や製品を使用する。
- ● 調理器具や保管場所はハラム用と分けるか、徹底的に洗浄する。
- ● 豚肉が触れた包丁やまな板を使わないなど、調理過程の配慮も重要。
5.2.3 配慮⑦:懇親会など社内イベントでの食事
- ● ハラル認証のあるレストランやケータリングサービスを活用。
- ● 社員食堂でハラルメニューを提供する。
- ● 食事手当を支給し、本人が持参できる環境を整える。
- ● アルコールの強要は絶対に避け、ハラル対応の選択肢を用意する。
このような配慮を通じて、イスラム教徒のインドネシア人材が安心して働ける職場環境を整えることができれば、結果として従業員のエンゲージメント向上や離職率低下、企業のダイバーシティ推進にも寄与するでしょう。

6. 知らないと危険!イスラム教の文化的タブーと禁止行為
宗教的・文化的背景から、日本では問題にならない行為でも、インドネシアでは無礼とされることがあります。円滑なコミュニケーションのため、これらのタブーを理解し尊重する姿勢が不可欠です。
6.1 左手は「不浄の手」|物の受け渡しや食事での絶対ルール
イスラム文化圏では、トイレ使用時に左手を使うため、左手は「不浄の手」とされる。
物の受け渡しや握手、食事などは必ず右手で行うのがマナーである。
6.2 頭部は神聖な場所|避けるべき身体的接触
頭は精神が宿る神聖な部位と考えられている。
子どもの頭をむやみに撫でるなど、親しみを込めたつもりでも避けるべき行為である。
6.3 異性との距離感|握手や写真撮影時の注意
信仰が熱心な人は、家族以外の異性との不必要な身体的接触を避ける。
握手は相手の反応を見て行い、写真撮影時に肩を組むなどの行為は控えるのが無難である。
6.4 服装に関する注意点|男女の違いや肌の露出
イスラム教では「アウラ(隠すべき部位)」が男女で異なり、公共の場で過度な露出は避けるべきとされている。
- ● 女性:一般的に「顔と手(手首から先)以外」を隠すべきとされ、熱心な信徒はヒジャブ(スカーフ)を着用し、身体のラインが出ない服装を好む。着用は個人の信仰度合いによる。
- ● 男性:一般的に「へそから膝まで」を隠すべきとされており、膝が露出する短パンや身体に密着する服装は避けられる傾向がある。
男女ともに、相手に不快感を与えない控えめで落ち着いた服装が好まれる。

7. インドネシアの宗教に関するよくある質問(Q&A)5選
ここではインドネシアの宗教や文化に関して多く寄せられる5つの疑問について答えていきます。ただし、これらは画一的なルールではないので、まずは本人との対話を通じて個別に配慮することが大切です、
7.1 Q1. インドネシア人は「全員イスラム教徒」ですか?
約87%がイスラム教徒ですが、キリスト教徒やヒンドゥー教徒、仏教徒も存在します。特に地域によって宗教が異なるため、国籍だけで一括りにせず本人に確認し、文化や信仰を尊重する姿勢が重要です。
7.2 Q2. 信仰の度合いは人によって違いますか?見極め方は?
イスラム教の厳格さは個人差があり、礼拝頻度やヒジャブの着用もさまざまです。外見だけで判断せず、「何か配慮が必要ですか?」と本人に直接確認することが望ましいでしょう。
7.3 Q3. 礼拝時間を厳密に守れない場合は?
多くは状況に応じ柔軟に対応します。たとえば昼休みまで待つ、午後にまとめて行うなど臨機応変に対応することも可能です。企業としては可能な範囲で配慮する姿勢を示すことで信頼関係を築けます。
7.4 Q4. 社内でハラル対応が難しい場合は?
完璧を求める必要はなく、弁当の持参許可や電子レンジ・冷蔵庫の利用自由化、食事手当の支給などで十分な配慮になります。
7.5 Q5. 女性のヒジャブ着用についての企業のルールは?
安全衛生上の問題がなければヒジャブの着用は個人の信条として認めるべきです。制服がある場合はヒジャブ対応のデザインにするなど柔軟な対応が望ましいでしょう。

8. まとめ:インドネシア人材の受け入れ成功は、専門家への相談が近道です
インドネシア人材の受け入れを成功させる鍵は、イスラム教をはじめとする彼らの宗教・文化への深い理解と尊重にあります。本記事で紹介した「礼拝」「食事」「断食」「文化的タブー」などへの具体的な配慮は、従業員との信頼関係を築き、定着率向上の重要な第一歩となります。
しかし、自社だけで適切な受け入れ体制を整えるには多くの時間と労力がかかります。そのため、より具体的かつ自社の実情に合わせた体制構築を進めるためには、専門的な知見を持つ専門家への相談が確実で効果的な手段です。
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