農業の人手不足|5つの課題と解決策、外国人雇用を解説
2025.08.21
日本の食を支える農業は今、従事者の高齢化と深刻な人手不足という大きな課題に直面しています。このままでは、食料自給率の低下や地域社会の衰退にも繋がりかねません。なぜ農業の担い手は減り続けているのでしょうか?そして、この状況を打破する有効な解決策はあるのでしょうか。
本記事では、日本の農業が抱える課題とその原因をデータに基づき分析し、スマート農業や経営改革、そして重要な選択肢である外国人材の活用まで、具体的な解決策を網羅的に解説します。持続可能な農業の未来を切り拓くための、実践的なヒントを提供します。
CONTENTS
- 1. データで見る日本の農業の現状:人手不足と高齢化の実態
- 2. なぜ農業は人手不足なのか?5つの構造的課題
- 3. 解決策①:生産性の向上 — 省力化と効率化の推進
- 4. 解決策②:経営力の強化 — 収益性と魅力の向上
- 5. 解決策③:人材確保の多様化 — 新しい働き手と働き方
- 6. 人手不足の切り札「外国人雇用」:受入れ可能な在留資格と特徴
- 7. まとめ:複合的な解決策で、持続可能な農業の未来を
1. データで見る日本の農業の現状:人手不足と高齢化の実態
日本の農業は、国民の食生活を支える重要な基盤である一方で、深刻な人手不足と高齢化という課題に直面しています。農林水産省の最新統計データを基に、その現状を客観的に見ていきましょう。
1.1 農業就業人口の推移:基幹的農業従事者の減少

農林水産省の「基幹的農業従事者」の資料によると、個人で事業を行う世帯員である基幹的農業従事者は令和2(2020)年には136万3千人と、現象傾向が続いています。このままのペースが続けば、今後も農業労働力は縮小し続け、農業生産の維持が難しくなることが懸念されています。
1.2 深刻化する高齢化:平均年齢の上昇

同データによれば、令和2年(2020年)時点での基幹的農業従事者数において、65歳以上が全体の70%にあたる94万9千人を占めています。一方で、49歳以下の若年層はわずか11%の14万7千人にとどまっていることがわかります。
1.3 後継者不足の現実:5年後の担い手確保状況

農林水産政策研究所の調べによると、全国の農業経営体を対象とした調査結果から、5年以内に経営を引き継ぐ後継者がいると答えたのは、わずか全体の24 〜 27%程度にとどまることが報告されています。一方、後継者不在を回答した割合は約70%と極めて高く、日本の農業における深刻な担い手不足が明らかです。
2. なぜ農業は人手不足なのか?5つの構造的課題
日本の農業が深刻な人手不足に陥っている背景には、単一ではなく複数の構造的な課題が複雑に絡み合っています。以下ではその5点を具体的に整理します。
2.1 労働集約的な作業と厳しい労働環境
果樹の剪定や野菜の収穫など、機械化が進んでも人手を必要とする作業が多く残っています。特に収穫期には深夜までの長時間作業、不安定な休暇制度、高齢者による労働が前提となるケースも少なくありません。労働基準法が原則適用外となるため、休暇が取りづらく過酷な労働環境が人手不足の一因となっていると考えられます。
2.2 収入の不安定さ(天候リスクと所得問題)
日本の農業は、台風や豪雨、干ばつなど天候リスクによって収穫量や品質が大きく変動します。また資材費や肥料の高騰と、米や野菜の価格低落により、新規就農1〜2年目では就農所得のみで生活できる人は約14%に過ぎず、事業継続が難しい現実があります。
2.3 後継者不足と事業承継の困難さ
後継者不足は深刻で、農林水産省の調査によれば、農業経営体の約7割が5年以内の後継者確保に課題を抱えており、65歳以上の経営体に限ると後継者未確保率は72%近くに上ります。親族以外への承継では、経営ノウハウや資産評価も難しく、担い手の継続性が確保されづらい構造です。
2.4 高い新規参入障壁(初期投資と技術習得)
農業を始めるには、農地の確保、農機具や設備購入に数百〜数千万円の初期投資が必要です。また、作物の栽培技術や販路確保に時間がかかることから、新規参入者の参入と定着率が低くなっています。
2.5 季節による繁閑差と通年雇用の難しさ
農作業は植え付け・収穫期など何倍もの労働力が必要となる繁忙期と、作業がほぼない閑散期に大きく分かれます。このため、年間を通じた安定雇用が難しく、季節雇用や短期アルバイトに依存せざるを得ない構造になっています。
これらの構造的課題が重なって、農業は持続可能な人手確保が難しい状況にあります。自治体や民間からの支援策、新規参入支援、法人化促進、外国人労働者の受け入れなどによる包括的な取り組みが不可欠です。

3. 解決策①:生産性の向上 — 省力化と効率化の推進
少ない人数でも回せる農業を実現するためには、スマート農業(農業DX)の導入と、農地集約・大規模化による効率的な運営が有効です。
3.1 スマート農業・農業DXの導入
3.1.1 ドローン、自動運転トラクター、各種センサーの活用事例
茨城県の約150haの米農家では、自動運転トラクターや遠隔水やりシステム、圃場モニタリングを導入し、生産コストを全国平均の約半分に抑え、少数の従業員でも高い生産効率を実現しました。生産性向上で販路の拡大にも成功しています。
また、農林水産省の事例(つじ農園、三重県)では、ドローンのシェアリングを地域で実施。共同で圃場スキャンや防除作業を行う仕組みにより、機器導入コストと労働時間の削減に一定の成果を上げています。
3.1.2 データ活用による精密農業
BASF・クボタなどが手掛ける「xarvio FIELD MANAGER」と「KSAS」を活用した可変施肥マップは、地力に応じた施肥管理によって4〜5%の収量アップと施肥コスト削減を実証しました。
他にも、IoTセンサーによる気温・湿度・土壌水分のリアルタイム把握とAI分析を通じて、適切な施肥・病害対応を自動化する事例が増えています(例:アグリノートや「よしよし畑」など)。
3.2 農地の集約・大規模化による効率改善
小規模・分散する農地を農地中間管理機構や農地バンクなどで集約し、大規模経営体として管理することで、大型農機の導入が可能となり、一人当たりの作業効率は飛躍的に高まります。
また、こうした規模のスケールメリットにより、最新機器の導入や経営の見える化(経営データ共有、後継者への引き継ぎなど)も進みやすくなり、担い手不足の緩和にも寄与するとされています。

4. 解決策②:経営力の強化 — 収益性と魅力の向上
農業を単なる生産現場ではなく、本格的な経営の場として設計することが、採用力や持続性を高める鍵となります。以下に、具体策を3つご紹介します。
4.1 農業経営の法人化によるメリット(信用力・福利厚生)
- ● 信用力の向上と資金調達の拡大
法人化により複式簿記の財務諸表作成が義務化され、金融機関や取引先からの信頼性が高まります。融資限度額も、個人の3億円→法人では原則10億円(特認時は最大20〜30億円)と大幅に拡充されます。 - ● 人材獲得に有利な福利厚生制度の整備
法人では社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられ、就業規則の整備も可能になるため、従業員が安心して働ける環境を提供でき、結果として雇用と長期定着の促進につながります。 - ● 承継の円滑化法人化により、親族以外からも役員や従業員を後継者とすることが可能になり、経営継続がしやすくなります。また、経営者の交代があっても法人格としての信用が維持されます。
4.2 6次産業化への挑戦(加工・販売で付加価値向上)
- ● 生産(一次産業)に加えて、加工(ジュース・ジャムなど)と販売(直売・イベント)が一体となるビジネス展開により、新たな収益源とブランド価値を創出できます。
- ● 具体例
- ○ 青森県弘前市の「シードル工房」では、りんごを活用したシードル製造・販売で、売上が460万円から3,700万円に成長。
- ○ 青森県弘前市の「シードル工房」では、りんごを活用したシードル製造・販売で、売上が460万円から3,700万円に成長。
宮城県大崎市のトマト農家は、加工品や直売所、カフェ併設により売上を1,700万円から5,500万円に拡大した事例もあります。
4.3 新たな販路開拓(EC・直販・輸出)
- ● ECサイトや直売所、直販体験(農作業体験・収穫体験など)により、消費者と直接つながる販売ルートを確立。単価向上とロイヤルカスタマー育成の効果が期待できます。
- ● 輸出展開により、中華圏やアジア諸国などの新興市場への販路を開拓することで、国内価格に依存しない収益構造が築けます。
これらの取り組みは一朝一夕では形になりませんが、経営視点を持つことで農業を持続可能で魅力的な職業へと転換することが可能です。

5. 解決策③:人材確保の多様化 — 新しい働き手と働き方
農業の担い手を増やすには、伝統的モデルだけでなく、柔軟で多様な働き方を受け入れることが不可欠です。
5.1 労働環境の抜本的改善(週休2日制・給与体系の見直し)
例えば法定労働時間、休日、有給休暇の導入により、休息と働きやすさを確保し、「働きがいのある職場」としての魅力を高める方法があります。収益向上とリンクした明確な給与制度と評価制度を取り入れることで、若手や移住希望者の応募意欲を高めることが期待されます。
5.2 多様な働き方の導入(半農半X、副業、ワーケーション)
- ● 半農半X:農業と他の仕事(たとえばIT、教育、コンテンツ制作など)を組み合わせる「複業」スタイル。山形県では農業とITを組み合わせた事例があり、冬期の農閑期を別業務に活かす柔軟な働き方が注目されています。
- ● 都市部在住者向けに、週末や副業感覚で参加できる農業スタイル(関係人口)でも一定の人材確保が可能です。
ワーケーション受け入れ:地方の農家や地域と連携し、一時的な労働力と地域交流の促進を図れます。
5.3 産地間連携による人材リレー
収穫時期が異なる産地同士で人材を融通し合う「産地間リレー」の仕組みにより、繁忙期の労働力を効率的に確保可能し地域全体で支え合う体制を構築することで、季節変動の影響を緩和できます。
5.4 外国人材の活用(詳細は次章へ)
- ● 特定技能や高度専門職などを活用し、農業分野でも外国人労働者の導入が進んでいます。
- ● 政府は外国人技術研修制度の刷新など、雇用環境改善と権利保護に向けた施策を進めています。
- ● 農林水産省は農業分野において、外国人技能実習生の雇用だけでなく指定技能者の活用を推進中です。
このように多様なワークスタイルを受け入れることで、農業に関心のある若者、都市圏在住者、外国人など幅広い人材を惹きつけることができるでしょう。

6. 人手不足の切り札「外国人雇用」:受入れ可能な在留資格と特徴
6.1 特定技能「農業」
- ● 特定技能1号(最大5年、家族帯同不可):即戦力となる技能と日本語力を持つ外国人が対象。農業分野で約8,000人超が既に活躍しており、派遣形態も可能であるため繁忙期の人材確保に柔軟に対応できます。
- ● 特定技能2号(更新無制限、家族帯同可):より高度な技能を持つ人材が対象。農業も今後対象領域に含まれる予定で、長期雇用や幹部候補の採用に適しています。
6.2 育成就労(旧:技能実習制度)
育成就労制度は、2027年までに施行される予定の新制度です。その目的は単なる技能移転ではなく、特定技能1号水準の人材を育成し、日本で定着させることを標榜しており、在留期間は原則3年。技能評価・日本語要件を満たせば、特定技能へスムーズに移行可能なキャリアパスが確保される予定です。例えば1〜2年就労後、一定の技能と日本語能力を持てば、本人希望による転職が同分野内で可能とされます。受入分野は特定技能制度の16分野と一致し、農業も含まれています 。
6.3 その他の在留資格による雇用可能なケース
- ● 留学(資格外活動許可):週28時間までのアルバイトが可能。農繁期の軽作業などに限定的に活用できます。ただし正社員雇用には適しません。
身分系資格(日本人の配偶者等、永住者など):就労制限がなく、日本人と同等に雇用可能。安定的な採用に活用できます。
6.4 ニーズ別:どの在留資格を選ぶべきか?
企業ニーズ | 推奨在留資格 | 特徴と活用ポイント |
通年で正社員として採用したい | 特定技能1号・2号 | 給与と雇用環境が整備され、安定雇用が可能 |
繁忙期だけの短期労働力が必要 | 特定技能1号(派遣活用) | 派遣形態に対応し、柔軟な人材調整が可能 |
将来的に幹部や専門職候補を育てたい | 育成就労 → 特定技能1号 → 特定技能2号 | 3年育成の上でスキルと定着性を高められる |
単発・パートタイムでの補助が中心 | 留学生の資格外活動 | 時間制限があるが短期の補助要員に活用可 |
安定して長く雇用したい場合 | 配偶者等、永住者など身分系 | 就労制限なしで即戦力として雇用可 |
これらの制度を効果的に活用することで、農業分野における労働力不足の解決だけでなく、人材の定着化、技能向上、自立支援といった長期的視点の構築にもつながります。

7. まとめ:複合的な解決策で、持続可能な農業の未来を
日本の農業が直面する人手不足と高齢化は、構造的かつ深刻な課題です。これらに対処するには、単一の特効薬では不十分であり、「生産性の向上」「経営力の強化」「人材確保」という3つの視点から、複数の解決策を組み合わせて取り組むことが不可欠です。
まず、省力化やスマート農業の導入によって、一人あたりの生産性を高めることで「少人数でも回る農業」を目指す必要があります。また、農業経営の法人化や6次産業化、新たな販路開拓などにより、農業を“儲かるビジネス”として再構築することも重要です。
人材確保の面では、これまで農業に縁のなかった多様な人々――副業人材、都市住民、若年層、シニア――を巻き込み、柔軟な働き方を可能にする環境整備が求められます。そして、外国人雇用はこの分野において非常に大きな可能性を秘めています。特に「特定技能」や、2027年に施行予定の「育成就労制度」は、農業人材を中長期的に確保する上で重要な制度となっていくでしょう。
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