キャリアアドバイザー伊能ゆりなの事件ファイルVol.28
浪費癖が直らないタイ人技能実習生の末路

ワタシ、伊能ゆりなは外国人材を雇用する企業や雇用される側の外国人が抱える課題を解決、サポートする業務に携わる、いわゆるキャリアアドバイザー。日本で働きたいと願うひとりでも多くの海外の方に、負担のないクリーンな就職環境を提供できるよう日々、さまざまな業務にあたっている。
実はこれまでもメンバーとともに珍事の解明に取り組み、全国を走り回っている（これまでの珍事はこちらからどうぞ）。

ひとえに
「外国人雇用の現場は予想だにせぬ出来事の連続である」
今日はそうした珍事をつまびらかにしながら私たちの仕事を紹介していきたいと思う。

浪費癖のある、技能実習生

浪費癖のある人は男女、年齢、国籍問わず一定数存在する。そんなことなど百も承知でこの仕事に邁進してきたのだが、ついに！あろうことか私が！とてつもない浪費癖のあるメンズを担当することになってしまった。

技能実習生のお給料事情については以前にもお伝えしていたが、手取りは10～17万円ほど。決して自由に使えるお金は多くない。おまけにそこから母国の家族への送金もあるため、手元に残るのは数万円程度だ。
ちなみに、一般的な技能実習生はきちんと貯金をして、節約を心がけた生活をしている。例えば生活必需品であっても業務スーパーなどで買い物し、寮の仲間と分け合ったり、食事も朝昼晩の3食を自炊したりして上手にやりくりしているケースがほとんどである。もちろん、私たちもそうした生活の工夫を推奨し、無駄遣いをしていないかなど毎月の面談で確認している。



前置きが長くなってしまったが、今日はそうした実情から目をそらし、私たちの目をかいくぐり、浪費家として生き抜く術を身に付けてしまったタイ人技能実習生、アルンさんの話。


では、なぜ薄給＆浪費癖のある彼がここ日本で平然と生活できるかというと、たまに街で見かけるローカル臭プンプンのお店には「つけ払い」が存在するから。もちろん、全てのお店がそうではないと思うが、昨今、日本各地に増殖中の〇〇〇タウンなどはその温床になっている可能性が高い。

ズバリ！
アルンさんは、「つけ払い」システムを上手く利用して【つつましくない】生活をしていたのである。
その実態はというと、生活費の全てをお店への返済にあて、日用品の購入もままならない日々。次の給料日まで、つけ払いができるお店を利用しながら食いつなぎ、まずは1ヶ月をやり過ごし、苦し紛れに2ヶ月、3ヶ月…。最初は2万円程度だった借金も額が膨らみ、つけ払いで利用するお店も増え、気が付けば火の車になっていた、というものであった。その間、何度も指導し、ようやく借金返済の目処が立ったある日、事件は起こった。

こいつにお金を貸すな！！借金まみれの救いようがないかわいそうな男

「ゆりなさん、助けてください。私の在留カードがSNSで広がっています！」

いつもはこちらから連絡するばかりのアルンさんから珍しく電話がかかってきたのは休日の真昼間。これからランチでも、というタイミングだった。

「落ち着いて、アルンさん。広がるって、どういう状況なの？」

状況が読めず詳細を催促する。

「在留カードの情報が出ています、拡散？拡大？それです。友達から連絡がありましたから見てみたら、私の情報でした。たぶん……お店からです。お店で借金するの、在留カードの情報と口座情報と教えます。それで、タイトルがあります。日本語で『こいつにお金を貸すな！！借金まみれの救いようがないかわいそうな男』です」

「なるほど、じゃあ心当たりがあるお店に相談というかお願いをして、取り下げてもらわないといけないんじゃないかな」

「そうですね。お店に行ってきます、今から。ありがとうございました」

電話は勢いよく切れた。
そういえば、風のうわさで、つけ払いができるお店は借金を踏み倒されないように横のつながりがあると聞いたことがある。もしかするとブラックリストができていて、その中の誰かがアルンさんの情報をSNSでさらした可能性がある。

元はと言えば、借金を重ねたアルンさんに落ち度がある。だが、さらし者にするのもそれはそれで問題だろう。



急ぎ、同僚のタイ人スタッフにも連絡を取り、SNS上でアルンさんの情報を探ってもらう。そこには、先ほど彼自身が言っていた『こいつにお金を貸すな！！借金まみれの救いようがないかわいそうな男』という見出しと、在留カード、働いている会社名、住所がばら撒かれていた。
タイ人スタッフからは「自分からも何度も注意をしており、最近は落ち着いた生活ができ始めたところだった」とため息まじりの返事が返ってきた。

とにかく、今はアルンさんの元に行ってみるしかない。連絡を取ろうとケータイを見るとアルンさんからチャットが届いていた。

「いつまでに借金を返すと約束して、投稿は削除してもらいました」

一件落着と言ってよいのだろうか。
SNS上で一度、全世界にさらされてしまった情報は、当事者が削除したからとて消えることはない。
まさかの事態の発生に、これまで散々手を焼いてきた私たちも、もはや手が出せない状況になってしまっていた。これを教訓として、特に金銭的問題にはシビアかつ念入りに対応していかねばならないだろう。

私は車のカギを掴むと駐車場へダッシュした。

終